佐藤くんは甘くない


「俺も、よかった」


佐藤くんが、そういいながら立ち上がる。


……何が良かったんだろう。

逃げ出さなかったこと?


ぽけーっと立ち上がった佐藤くんを見上げる。佐藤くんがその視線に気づいて、私のほうを見る。すると、小さく笑った。思い出し笑いだろうか、少しだけ口元が緩んでいた。


「……聞きたいこと、聞けたし」

「聞きたいこと?」


私が聞き返すと、今度は真っ赤な顔をした佐藤くんが、いきなりそっぽを向いて、


「な、なんでもないから」


と突っぱねられてしまった。

どうしたんだろう、佐藤くん。さっきから赤くなったり渋い顔になったり。やっぱり、演劇の後だから疲れてるのかな。


やたら視線をきょろきょろさせる佐藤くんを見上げながら、そんなことを思っていると、佐藤くんがあ、と小さな声を漏らした。

なんだと思って顔を上げると、佐藤くんの視線がさっき私が机に置いた、木箱を向いていた。それを手に取って、ぱかっと箱を開くと、中から劇中で使っていたあの指輪が入っている。


「その指輪綺麗ですよね~」

「なんか、クラスの人の中に家でガラス細工のお店やってるやつがいたから、売れ残ったやつただで貰ったって」

「あ、そうなんですね。これ見てると、思い出しますね」


私も立ち上がって、佐藤くんと一緒に木箱に入った指輪を覗き込む。


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