大好きな君へ。
 バイクを駐輪場へ戻してからマンションへ入りエレベーターに乗り込む。

何時もならその前にスーパーへ向かうのだが、今日は孔明と買い物へ行く約束になっていた。
だから一旦部屋に入って掃除機をかけるつもりだ。
幾ら気の許せる親友と言っても、そうすることが一応の礼儀だと思っていたからだ。




 ソファーベッドの脇に置いてあるローテーブルをダイニングに移動して、その上に新婚生活用に買った小さなホットプレートを乗せる。


それらが済んだ後で、孔明に今帰って来たと連絡を入れた。

スリッパも用意して、エレベーターで下に向かう。
孔明にマンションの前で待っていると伝えてあったからだった。


(そう言えば、未使用だったんだな。此処に来て初めての焼き肉かも知れないな)
何気にそんなことを思った。





 訪ねてきた孔明と一緒にスーパーへ向かう。

「此処本当に最高の立地だな」
道を隔てたスーパーの入り口前で、羨ましそうに孔明が言った。


「もしかしたら、花火大会も見える?」


「もしかしなくても、上の方だからバッチリ見えるよ」

堂々と言う僕をの手を孔明がいきなり掴んだ。


「だったら此処に住んでもいい?」
これ又いきなり言った。


「やだよ。BLなんて願い下げだ」


「ボーイズ・ラブ!?」

孔明が目を丸くした。


「アホくさ。誰がお前なんかと」


「だったらどんな意味なんだよ。野郎二人で住むって意味は?」


「厭らしいなお前、変なことばかり考えているんだろう? 欲求不満か?」

孔明の指摘に言葉を失った。


「図星か? 大女優の息子なら女の子に困らないだろうに」


(又、その話題か?)
そう思った。
孔明はことある毎にそう言って僕をからかうんだ。


孔明が大女優の息子だと言ったには訳がある。
『怜奈』と言う、常に主役級の女優が僕の伯母なのだ。
だからそんな噂が小さな時から付いて回っていたのだった。


孔明は気さくだけど、平気で心の中に泥足で入ってくる。
でも憎めない、本当にいいヤツだったんだ。




 「止めてくれ、そんな話し。噂に決まっているだろう?」


「噂か? だろうね。あんなボロっちいアパートに大女優の息子が住んでいる訳がなかったか」


「ボロっちいか……」


「あ、ごめん。でも本当にボロだったよね?」


「うん。此処とは段違いだった……」

僕は叔父と暮らしていたアパートを思い浮かべながら、自分の部屋を眺めていた。


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