大好きな君へ。
 「いい加減にしようよ。せっかくの花火大会なのに」

優香はそう言いながら結夏のカーテンをそっと触った。


(優香はきっと結夏と一緒に見たくて……)

優香の優しさを改めて感じた時、初めて孔明をこの部屋に招いた日を思い出していた。


孔明は以前『良いのか? 俺は大飯食らだそ』って言った。

その言葉通りにどんどん平らげていく。

テーブルの上にあった料理はあっという間に無くなっていた。


「翔君も一緒だったら良かったな」

そんな時、ポツンと優香が言った。


「あ、悪い用事思い出しちゃった。二人でちょっと見てて……」

僕はそう言いながら部屋を飛び出して行った。




 僕は翔を連れてマンションに戻ったのは、花火大会が始まって一時間ほど経過した時だった。


「翔!?」
部屋のドアを開けると、真っ先に孔明が飛んで来た。


「どうしたんだ?」

戸惑いながら言う孔明に嘘は付けなかった。


「原島先生から翔のママに連絡してもらったんだ。孔明が一緒に花火見物をしたいと言っていると……。本当にごめん」


「いいよそれで……。ありがとう隼。そして優香」


「えっ、私ですか?」


「優香がさっき『翔君も一緒だったら良かったな』って言ってたから、コイツ行動を起こしたんだよ。隼、そうだよな?」

孔明の指摘に頷いた。


「やっぱりか。お前、本当にいい奴だな」

孔明が泣いていた。




 「たまやー!! かぎやー!!」
それでも又始めた。


「いいか翔。江戸には花火屋が二つあってな」
孔明が花火の講釈を始める。

僕と優香は、そんな微笑ましい叔父と甥の姿を見つめていた。




 「優香が翔のことフォローしてくれたと原島先生から聞いたんだけど……」


「ああ、パンクさせられた時だったかな。優香翔を抱いていたんだ」


「翔君、隼みたいに寂しいんだと思ったの。ホラ何時も園長先生にくっ付いていたでしょう?」


「確かに隼は甘えん坊だったな。俺も羨ましかったんだ。でも優香はもっとだったんだろう?」

孔明の言葉を受けて、優香の顔が赤くなった。


「どう言うことだ?」


「優香は原島先生に嫉妬していたんだよ。でもそれ以上に憧れた。だから保育園で働きたいと思ったようだ」


「優香……」

僕は本当に幸せ者だと思った。


マンションから見える花火は少し遠い。
それでもこの日にこうして集まられたことが嬉しくて堪らなくなっていた。




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