大好きな君へ。
 「優香」
孔明と翔の邪魔にならないように囁くように小さな声を掛けた。

それでも振り向かない優香に、僕は紙を丸めた物を投げていた。


それに驚き、優香は後擦りをしながら僕の元へやって来た。


「悪いけど、翔に何か作ってくれないか? 原島先生から了解取ってもらったから」


「うん解った。キッチン借りるね」

そう言いながら冷蔵庫を開けた優香は、今度は手招きで僕を呼んだ。


「何?」

首をだけ出すと、優香は冷蔵庫内を指差した。


「パン以外何も無いよ」

優香の言葉で思い出した。

例の、サンドイッチ系のパンとドリンクしか入っていない事実を……


(しまった。孔明があまりにも大飯食らいなので、さっき全部出したんだ)

一応何品かスーパーのオードブル類いを用意してはいたのだ。


「これしかないけど翔君にあげちゃってもいいの?」


「あ、駄目だ。僕自慢じゃないが、朝胃に何かを入れないと持たないんだ」


「何よ、今更遅すぎる。それにレディーに向かって物を投げるなんて最悪だよ。だからお仕置き」

優香はそう言うが早いか、翔にそれを持って行ってしまったのだ。


「優香の意地悪」
僕は駄々をこねた。


「仕方ないな。二人をこのままにしてスーパーに行こうか?」
優香の提案に頷いた。




 二人の邪魔にならないように抜け足差し足で移動する。

僕達はその後で隣のスーパーへ行って軽く摘まめる物を買ったのだった。




 八月三十一日。
僕は結夏の家にいた。
正式に結夏の御両親に謝罪するためだった。


警察で事情聴取をされた訳ではない。
それでも僕が結夏と最後に肌を合わせた人物だと思う。
その行為が引き金となって、結夏のお腹に居た胎児が流産したのかも知れないんだ。


結夏は子宮外妊娠をしていた。
それでなくても流産し易い身体だったんだ。




 其処には、翔と翔のママもいた。


僕はあの花火大会の夜マンション前で、翔の母親のお迎えを待っていた。

そしてこの日に翔を連れて結夏の家にやって来てほしいと頼んだんだ。

だから二人は此処に居る訳だ。


二人だけではない。優香と孔明と孔明の兄貴も同席していた。
でも前夫の不信感を払拭出来ない翔のママは、翔を抱いたまま離そうとはしなかった。




 「申し訳ありません。僕のせいで大切な御嬢様を傷付けてしまいました」


「えっ、それでは結夏さんは……」

そう言ったのは翔のママだった。




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