大好きな君へ。
 無人のお寺なので、開経偈や般若心経まで唱えることにした。

早速上へと向かうと、現れたのは静寂と言うのがピッタリな本堂だった。


「おん、あろりきゃ、そわか」
これが二番の真言だ。
光明真言、御宝号回向文を唱え、御礼を言ってから境内を後にした。


「此処は最後に加わったお寺だそうだよ。一度火事に合って消滅したけど、お坊さんが必死に御本尊を守ったそうだよ。焼け残った欄間などを使って明治時代に再建されたらしい」

僕は本で得た知識をひけらかていた。

優香は僕の説明を頷きながら聞いていた。




 山道を下る。

その先にある江戸小道には樹齢五百年のキンモクセイがあったそうだけど、枯れてしまい去年伐採されたそうだ。
だから敢えて遠回りをした。


その坂の下で僕達を待っていたのは滝だった。
殆ど人が気付かない隠れた名所なのだ。


其処で一休みしてから、光明寺に行き御朱印をいただいた。


山田橋を渡り三番札所へ行く。


「おん、あろりきゃ、そわか」
一番から三番まで同じ真言だと言うことに気付く。

それでも、一心に唱え続けた。


納経所の近く縁側にに子持ち石が陳列されていた。


そっと優香を見ると泣いていた。
その姿に僕も泣かされていた。




 三番の案内板の横を右に折れて巡礼橋へ向かう。
その道は真っ直ぐ四番札所の金昌寺に繋がっているようだ。


「あっ、此処で杖を付いちゃ駄目」


「え、何で?」


「金剛杖は弘法太子の化身だけど、橋の下にも寝て居るそうなのよ。矛盾してるけどね」

確かにそうだと思いながら、僕は杖を持ち上げた。




 比較的大きな通りに出た。
でも其処には信号どころか横断歩道さえ設置してなかった。

せっかくあれだけ立派な巡礼橋が作りながら、其処までは気が回らないようだ。
宝の持ちぐさりと言うか、仏作って魂入れず状態だと思った。




 その通りは車の往来の多く、なかなか渡るタイミングが掴めない。

やっと左から来る車がなくなった。
そう思った矢先、右から来た。
特に左側は少しカーブしているようで、突然車が目の前に来る状態だった。


「此処、絶対に歩行者専用信号が必要ね」

堪りかねて優香が言った。




 やっと渡った道の先に小さな休憩所があった。
個人がお遍路達をもてなす場所を提供しているようだ。

僕達は其処で食事を取らせてもらうことにした。


優香のサンドイッチは保冷剤に包まれていた。




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