大好きな君へ。
 仏説摩訶般若波羅蜜多心経と書かれた半紙をを奉納するべく持参した。

僕達は時間が許す限り写経することにしたのだ。


それは長い般若心経を読み上げるだけで日が暮れてしまうような気がしたからだった。


結夏と隼人の御霊を成仏させるべく半紙を買った。
その余りを有効利用したのだ。

きっとそれなら隼人も許してくれると思ったのだった。




 「おん、あろりきゃ、そわか」
これは此処、札所一番の真言だ。これを三度繰り返す。


「おんあぼきゃべいろうしゃのうまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん」
そしてあの光明真言となった。
これも三度繰り返す。


「南無大師遍照金剛」

その後で御宝号も三度唱えた。


「願わくばこの功徳を以て遍く一切に及ぼし、我らと衆生と皆共に仏道を成ぜん」

回向文を一度唱える。


「ありがとうございました」
と御礼をしてから、水子供養所へと向かう。


その足で、戦没者慰霊塔とその奥にある慰霊碑に向かい合掌した。


八月二十四日に訪れた、施食殿の横を通り納経所へ向かった。




 僕達は鐘を突かなかった。
全てのお寺にある訳でもないし、突くこと事態を禁止しているお寺もあるようなので……

他の方々の迷惑になるような行為は出来る限りやらないでおこうと話し合ったのだ。


僕達がなぜこんなのも本気で礼拝するのか、それは結夏と隼人親子を苦しみから救うこと。そして優香は、僕の心を救うこと。

そうだと思った。


でも優香は、自分をエゴイストだと思っているようだ。

僕を独り占めにしたかっただけだと……
だから尚更優香が愛しいのだ。


次に向かう札所二番の真福寺には納経所が無くて、光明寺でやっていると聞いた。
僕は光明真言とゆかりのあるお寺なのかと思った。




 あの日降りた栃谷バス停の横を通り、札所二番入り口の看板を頼りに斜めの道に入った。

道なりに進んで行くとかなり勾配のある薄暗い山道へと入った。


途中で自転車回っている人に出会った。

バテて休んでいるようだ。


「もう少しですよ」

僕がそう声を掛けた。


「本当?」

疑っている優香に向かって僕は案内板を指差した。


「あっ、本当だ」

其処には二番入り口の文字がはっきりと書かれていた。
途端に優香は足を早めた。


そのすぐ横を曲がり暫く行くと真福寺の駐車場があり、其処から階段が見えた。


その先の階段には無数の石仏が並んでいた。




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