大好きな君へ。
 次は十番へ行く予定だった。

でも羊山公園入口の信号で携帯を開けると、午後五時近くになっていた。


「今から行くと札所の方に迷惑掛かるだろうから諦めましょうか?」

結夏の言葉に仕方なく頷いた。

札所の開いている時刻は季節によって違うけど、大概午後五時までだったのだ。


「でも、此処なら……」

そう言いながら、札所十一番と書かれた案内板の横を通り過ぎる。
後ろ髪を引かれながら、僕達は国道の脇にある坂道を下って行った。




 其処から約二十分ほど歩けば目的地の近くの駅に行けるそうだ。


僕達はその途中にあったベンチで荷物を確認した後で、御花畑駅に向かった。


今日から四泊五日の予定で、宿を取ったのだ。
僕一人だったら野宿でも構わない。
だけど優香が心配して付いて行くと言ってくれた。


そんな優しい優香をでんぐ熱にさせる訳にもいかないから、必至に格安旅館探したんだ。


その宿の最寄り駅が御花畑駅だったのだ。




 「あれっ、行き止まりだ」

御花畑駅前の小さな階段を下りて左に行くと、お店で道が塞がれていた。


仕方なく又上に戻って、スロープへ行く。
その先の道を右に行けば札所十三番。左に行けば秩父夜祭りの難所、談合坂だ。


「あれをどうに切るのだろう?」


「えっ、何のこと?」

僕が線路の上のを見ているのが優香には不思議に思えたのだろう。だからそう聞いたのだ。


「あっ、ほらあの電線のことだよ。秩父夜祭りで坂上がりの時に切断して、又くっ付けるそうだよ。何か大変そうだなって思ってね」


「だったら、川越と同じように地中に埋めれば済むと思うけどね」

優香のことばで、川越の蔵造りの道を思い出していた。
あの通りには川越まつり会館もあったからだ。


「優香、うまいこと言うね」


「そんな」

照れてる優香が可愛い。
だから僕は調子に乗っていた。




 そんなことを話しながら暫く歩くと、予約した旅館の案内看板があった。

僕達はすぐに旅館の前へと足を進めた。




 宿にチェックインして荷物を案内された部屋に起き、お風呂に入り食事を済ませた。


その後で写経を始めた。

一字一字丁寧に書いていると、女将さんがコーヒーを入れてくれた。


「明日はなるべく早く出たいと思っております。どうぞよろしくお願い致します」

優香が言うと、女将さんは微笑んでいた。




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