大好きな君へ。
 隼は七段ギア付き、私は電動アシスト自転車を借りることにした。

電動アシスト自転車の満タンの充電で約三十キロメートル走れると言う。


観光案内所から二十五番まで行き又観光案内所へと戻る距離は目計算で約二十二、三キロメートル。
楽勝だと思ってたからだった。


隼は自力で何とかすると言う。
でも私には坂道はキツいからと勧められたのだ。

本当は私だって隼と同じのを選びたかったのに……
ううん、出来ることなら隼も電動アシスト自転車を借りてほしかったのだ。
だって、その方が絶対に楽だと思っていたからだった。




 でも隼は、札所二番への坂道でヘバっていた人を思い出していたようだ。
だから私に負担を掛けたくなかったのだった。
それは隼の優しさに外ならない。
私は隼の思いやりに涙した。


とは言っても、三段ギアより七段ギア付きの方を選んでいた隼だった。




 十五番札所の少林寺は線路を越えた場所にある。


秩父神社から延びた道が目安だ。
バスの中から確認した十五番札所への案内板まで足を伸ばしてから、その札所を目指した。


「おん、まか、きゃろにきゃ、そわか」
十一面観音のご真言を唱える。

気になったのは、札所全部に掲げられている秩父観音霊験記が何処にも無いことだった。


「あっ、あった」
隼の声がした。


「この中にあるみたいだよ」

隼の指差す小さなお堂。
その中には確かに絵らしい物があり、隙間から覗いて見ると足だけ見えていた。




 「次は昨日行けなかった十番札所の予定だけど大丈夫」


「何が?」


「坂道をきついよ」


「隼がでしょ」

私は隼の困った顔を見ながら笑っていた。




 十五番から西へ行き、次の交差点を左に曲がった。


十一番はこの反対側だ。

でも信号を渡り下らなければならない。

だから坂を上って十番に足を延ばしたのだ。


私達は国道に出て、信号手前を左に曲がった。


バス通りをどんどん進んで行くと、十番への案内板があった。
其処は斜めの道だった。


門の横には花が咲いていた。
その横には大きな蔵がデンと構えていた。
その顔は笑みをたたえているように思えた。


階段を登って大きな山門潜る。
勿論、礼は欠かせない。


「おん、あろりきゃ、そわか」
聖観音のご真言だ。


中には撫でると疾患を肩代わりしてくれると言う、おびんづる様が安直してあった。


その姿は八番札所のなで仏のようにピカピカだった。

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