大好きな君へ。
 今来た道を逆さに行く。

札所十一番はさっき曲がった信号からほど近かったのだ。


羊山公園と書かれた小高い丘が見えた。
その脇には昨日通った坂氷バス停があるはずだ。


此処までは快調だった。
結構キツイ坂道だったけど、流石に電動アシスト自転車だと思った。

隼は……
まだまだ余裕みたいだった。


私達はその下の道をカーブに沿って走らせた。


駐車場の脇に自転車を止めて歩くと札所十一番へと向かう。


かなり勾配がある坂道を上りきった場所にその寺があった。


「うわっ、此処から来なくて良かった」

隼の目線の先には物凄い急階段があったのだ。


「さっきの坂もかなりあったでしょ? あれだけの物を一気に上がるとかると……、やっぱりこのくらいは必要なみたいね」

解りきったように、私は言っていた。




 「おん、まか、きゃろにきゃ、そわか」

札所十一番常楽寺の十一面観音のご真言だ。


(札所十一番が十一面観音か? うん、良く出来てる)

私はそんなくだらないことを考えていた。




 納経所の先に山道がある。
その道も通れるようだ。
でも入口から見てもかなりの細い道だ。


そこが札所十番と繋がっているようだった。


境内の脇にある赤い連なる鳥居を進むと、琴平神社と稲荷神社があるそうだ。
関東地方では、神社仏閣は同じ敷地内に建てられていた。
それが明治時代の改革によって切り離されたようだ。


(そう言えば、札所一番の近くにも神社があったな)
そう思った。




 次は十六番西光寺。


「おん、ばざら、だらま、きりく」

これは千手観音のご真言だ。


庭には酒樽のような大きなお堂があった。
その向こうには沢山の花が咲いていた。


私は回廊に入り驚いた。

此処に四国八十八観音を模した観音像が全て奉られていたからだった。


秩父にある観音様もあったけど、一番凄いと感じたのは不動明王だった。


その中には団体で回っている人達がいた。


その人達を案内していた人が興味深い話をしてくれた。

勿論、私達に向けられた言葉ではないのだが……


西光寺には江戸時代に博打場があったそうで、賭博用語の寺銭はこんな場所から発した言葉ではないのかと言う話だった。


四国八十八観音を安直しているお寺には似合わないと思った。




 大正時代に作られたと言われる酒の仕込み樽を利用した酒樽大黒天に一礼をしてから庭に咲く花々を見て回った。




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