大好きな君へ。
秩父の闇
 秩父公園橋に寄り道してみた。
驚いたことにその下にも橋があった。
その橋は武之鼻橋と言い、秩父川瀬祭りの時に御輿を水洗いする川原へと続く橋だと言うことだ。


今から百三十一年前、吉田の椋神社に集まった暴徒が札所二十三番裏の小鹿坂峠を越えて今の秩父中心街を焼き討ちしたて言われている秩父事件。

その時渡ったのが下に見える橋のようだ。


それは秩父が抱える貧困の歴史だった。
明治十七年十一月一日。
生糸価格の暴落に端を発し、一斉蜂起した秩父事件。
それは高利貸しの横暴や政府への不満を募らせた結果だった。


秩父を語る上で、この事件は欠かせない。
貧困に喘いでもがき苦しみ、遂に爆発した人々。
舞台となったのは手作りロケット・龍勢で知られる吉田地方。
秩父地方は絹織物の産地だった。
生糸価格の下落はそのまま生活苦に繋がってしまったのだった。




 秩父事件の首謀者の一人は欠席裁判で死刑が確定していたが逃走した。
まず武甲山に身を隠しで、その後に北海道に逃げて暮らしたと言う。


昨日訪ねた札所五番にもエピソードがある。
花火職人が機転をきかせて、大砲と見せ掛けて尺玉を打ち上げて暴徒達を逃がしたそうだ。

秩父にも暗い時代があったのだと感じた。




 秩父事件に所縁の寺である音楽寺。
その手前にある秩父公園橋の近くでスーパーを見つけた。


「ねぇ隼。彼処でお昼にしない?」

その言葉を受けた隼は怪訝な顔をした。


「お昼は確か女将さんが用意してくれていたと思うけど……」


「そうなんだけど……彼処にはお茶とかが置いてあって、食事も出来るるはずなのよね。国道沿いにあるスーパーに良く行くのね。だから解るの」


「そう言えば、同じ名前だったね。」


「ねぇ物は試し……」

私は隼の手を引いて、そのスーパーへと向かった。




 やはり其処にはお休みスペースがあって、無料の湯茶サービスもあった。
私は其処のテーブルの上に女将さんが用意してくれたオニギリを並べた。


「わあ、焼きオニギリ。しかも味噌だ」


「本当だ。こんなの初めてだ」

二人共食べる前から興奮気味だった。
それは包んであったのが竹の皮だったからだ。


「こんな場所があるなんて良く知っていたね」


「だって、隼の近くのスーパーは自転車を止め難いのよね」


「あっ、そう言えばバイクも止め難いんだよね」

何気に言う隼。
私は何故か引っ掛かった。




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