大好きな君へ。
 『此処本当に最高の立地だな。もしかしたら、花火大会も見える?』

突然、さっきの孔明の言葉が過った。


「それって何時頃の話?」


「確か七月の初めだったかな。ホラ梅雨の中休みかなんかで、熱中症で大勢倒れた日だったような……」


(やっぱり、あの日だ。僕と最後に会った日だ。あれから僕は何をした?)

そうだった。
僕はただ結夏を待ち焦がれていただけだった。
結夏の誕生日だった花火大会の時だって……


僕はこの部屋とマンションの出入り口を行ったり来たりしていただけだったんだ。


僕は何も知らずに、ニューヨークに行って……
両親の前でのろけていたんだ。
そんな僕の姿を見て両親は婚姻届けに署名してくれたんだ。


だから僕は結夏の二十歳のバースデイの花火大会の日にそれを提出する予定だったんだ。




 僕は泣いた。
孔明はそんな僕をそうっとしておいてくれた。
孔明は口は悪い。
平気で心の中にも土足で入って来る。

でもむちゃくちゃいいやつだったんだ。


「出逢いとベッドがね、この頃近すぎる。って歌もあるけど……、お前達は……」

僕が感無量になっていたのに、孔明はおちゃらかすように言う。
確かに結夏との再開とベッドは近かった。


だから、僕はそれを運命だと感じたのだった。




 「ところで、何で結夏のことに詳しいんだ?」

何を言い出すのかと頭の中では考えていた。
でも何かを訊ねたかったんだ。


「忘れたのか? 俺の家は結夏家の前だったんだって」

孔明は解っていると言いたげにしながらも、笑顔で応えてくれた。


「あっ、そうだったな。だから良く三人は一緒だったんだ」


「そうだよ。公園の砂場で遊んだり……そう言えばお前、トンネルばかり作っていたな」


「ほら、オンボロアパートの近くにもあったけど、彼処の砂場狭くてな」


「お前今、自分からオンボロアパートだって認めたな」


「いや……そうか認めたか」


「それに彼処は保育園の近くだったから、凄く羨ましがっていたな」


「いや……、ただ歩きたくなかっただけだ」


「物臭だな」

孔明が笑ってた。

僕は孔明の優しさに再び泣いていた。




 そんなこともあって、すっかりエロ本を返すことも忘れてしまっていた僕だった。




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