大好きな君へ。
 「えっ!? バイク止めたことあるの?」


「うん、学校の帰りにね。でもあのスタイルになってからはないかな」


「隼の場合はそれで済むけど、私は歩き以外寄らないな」

私は隼のマンションの前にあるスーパーの駐輪場を思い出していた。
駅前にある駐輪場のような前輪をロックする器具が等間隔に並べてあるんだ。


「どうしてあんなスタイルにしたのだろう?」
私はまだ納得出来ずにいた。


「無断駐輪を防ぐためだと思うよ。彼処って駅に結構近いからね」


「うん、それは解る。だって私も彼処に止めて電車でお出掛けしたことあるもの……あっ、勿論帰りに食材買って帰るけどね」


「実際問題、そう言つ人が多いのかな? だから変えたのかも知れないな」

確かにそれは言えてると思った。


「バイクはどうに止めるの?」


「使ったことないから解らないけど、確かチェーンがあった気がするな」


「あっ、そう言えば隅にあったね」

何故こんな話になったのか解らないけど、私達は暫く其処にいた。




 次に訪れたのは十七番定林寺。

山門は階段の上にあった。

所作の後で梵鐘の前に立った。


西国三十三観音と阪東三十三観音と秩父三十四観音の合わせて百観音を模していて、県指定の文化財なのだと言う。

先に突いている人がいたので私達も並んでみた。
初めて突くその鐘は、秩父盆地に鳴り響いていた。


「おん、まか、きゃろにきゃ、そわか」

十一面観音様のご真言を唱えて裏の回廊に入ると、緑の紐があった。

その紐はご神仏と繋がっていると書いてあった。


私はその紐をきつく握り締めて、結夏さんの慰霊と隼人君の霊が賽の川原から救い出せることを心を込めて祈っていた。


「結夏……隼人……」
か細い声が聞こえた。


私は隼の隣にそっと寄り添った。




 納経所は色々な貼り紙があって賑やかだった。


アニメの舞台になった札所だそうで、そのキャラクターのポスターなども並んでいた。


「去年の八月最終日がテレビ局側としてはファイナルだったんですよ。でもその後も多くの方々が聖地巡礼に訪れてくれています。偶々ですが、そのアニメの実写版が明日九時より放映されます。」
と、納経場の人が言った。


私達は其処で小さなお遍路人形を戴いた。


近所のお年寄りが作ると言うその人形は、顔が風船葛の実だった。

何も描かれていない黒い中のハートの部分が何故か微笑んでいるように思えた。




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