大好きな君へ。
 次の十八番神門寺は国道140号沿いにある。
だから定林寺の前の道を暫く進み、丁字路を左に折れた。


取り合えず線路を目指す。
その向こうに国道があるからだ。


道に迷いながらも、何とか大通りに出た時はホッと胸を撫で下ろした。
其処の信号には中宮地と表記してあった。


自転車を止めて地図で確認してから国道を北に向かった。




 やはり十八番神門寺は国道脇にあった。
元々は神社で、大きな榊が枝分かれをして空で結びあった姿が桜門に似ていたからこの名がついたそうだ。


「おん、あろりきゃ、そわか」
此処も聖観音様だった。


「ねえ、彼処に行ってみない?」
隼が本堂の裏にある回廊と言う文字を指差しながら言う。


(えっ!?)
私は一瞬凍り着いた。
長野と山梨にある善光寺の、あの真っ暗な回廊を思い出したからだった。


思わず身を縮めた私。でもそんな素振りを見せないように、隼の後を追った。


でも其処は明るいかったのだ。
薄暗い回廊の向こうが開いてあり、太陽光が差し込んでいたからだった。


私は考え過ぎていただけだったのだ。




 その寺の門の隣は太子堂とでも言うのだろうか?
立派な宝仏がところ狭しと並んでいた。


其処は蓮華堂と言い、九体の仏像があった。
蓮華は泥沼でも美しい花を咲かせる仏の世界の象徴なのだそうだ。
私は一つ一つの仏像に手を合わせて、隼との恋が成就することを願った。
罰当たりだと思いながらも……


その中の一つに大日如来様があった。
私は光明真言とこの像が重なり思わず手を合わせた。


「大日如来様。大日如来様。唱え奉る光明真言は大日普門の万徳を二十三字に集めたり……己の空しゅうして一心に唱え奉ればみ仏の光明に照らされて三妄の霧自ずから晴れ浄心の玉明らかにして真如の月まどかならん」

私が急に御題目を唱え出したから、隼は目を白黒させていた。


「この後に、光明真言が三度続くの。それが正式な光明真言なのかも知れない」


「阿謨伽尾盧左曩摩訶母捺鉢納入鉢韈野吽」


「おんあぼきゃべいろうしゃのうまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん」

私が言うと隼が唱えた。




 「でも何故かしら? きっと何処かの宝物殿に大日如来様も安置してあったと思うの。でもこんなに心を揺さぶられたことなかった……」

私は暫く、蓮華堂から離れることが出来ずにいた。




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