大好きな君へ。
 私は先ほど見た武之鼻橋を渡ったと思われる暴徒達に思いを巡らせた。
この大日如来が秩父地方を明るく照らすことを願わずにいられなかった。
もう二度と、秩父に闇の時代が訪れることのないように……




 最後に寄った十九番龍石寺。
そう……
其処でタイムアップだったのだ。
でも私達はまだその事実を知らないでいた。


ここはまるで岩の上にでも建たような仏閣だと感じた。
だからなのか庭はゴツゴツしていて歩きづらい。


実はこの寺は本当に巨大な一枚岩の上に建っていて、境内のところどころに岩盤が露出している。
だから歩き難かったのだ。


「この一枚の大きな岩盤によって俗世界の塵土を踏むことがない特別な霊場なのだそうだよ」

隼が知識をひけらかす。
私は改めて、この岩をの歩き具合を靴の底で確かめようと思った。




 「おん、ばざら、だらま、きりく」

それは千手観音のご真言だった。


私達は一生懸命に祈りを捧げた。
この思いが優香さんと隼人君に届くようにと心を込めて。




 札所十九番の道を東に行き丁字路を左に折れる。

そのまま真っ直ぐに行くと、橋があった。


その向こうにある橋に気になり、見逃してしまいそうな場所だった。

其処がアニメに登場して一躍有名になった旧秩父橋だった。


今は歩道専門になっているその橋を渡る。

此処は巡礼道にもなっていて、自転車の人は押して歩くそうだ。

アニメ人気も手伝って、橋の上には沢山の人が集まっていた。


橋の上には花壇が置いてあり、季節の花々が咲いていた。


「明日実写版放映されるそうですね」

知ったかぶりをしてみた。


「同じスタッフで十九日より映画も上映されていますよ」

そう返ってきて苦笑いした。




 渡りきった反対側に休憩所があった。

でも其処でタイムアップだった。


『二十五番まで行くつもりだったのに』

そう言って残念がっていた隼だった。


私達は翌日も又レンタサイクルで回ることにして宿へ向かったのだった。


原因は解っていた。
私がスーパーへ誘わなければ……
蓮華堂の大日如来様に感銘を受けて、長い光明真言を唱えなければ……
でも隼は何も言わずに何時も気遣ってくれる。
それが心苦しかった。


私さえ此処に居なければ……
一緒に付いて来なければもっと効率良く回れたはずなのだ。


私が我が儘を言ったばかりに隼に多額の負担を掛けている。

それが隼にとって痛手なことは解っていた。




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