大好きな君へ。
 暫く行くと木陰が見えたので、休憩を取ることにした。
何時もならそれだけで又走り出してくれるからだ。


物凄く心配だった。
もしかしたら、このまま此処で……
そんな思いも交錯していた。


何だか情けなくなったけど、元気付けようと持ってきたサンドウィッチ系パンを取り出した。


(何で……? どうして僕こればかり買ってんしまうのだろう?)

一種の癖なのだろうか?
コンビニや大学の購買部へ行くと、ついこれに手が伸びるんだ。


(優香ごめんね。僕、結夏のことを忘れられないみたいだ)
余計に落ち込んで暫く其処から動けなくなった。




 それでも一時間ほどしたら、何とかエンジンが掛かってくれた。
僕は一目散にバイクショップを目指すことにした。


何度かエンストして馴れていた。
一度エンジンがかかると、切らない限り動いてくれるからだった。




 「又エンストしました。バッテリーではなかったようです」


「お客さんが、セルが回らないって言うからバッテリーを交換したんだけど……」

責任は僕にある的な返事だった。


「カタカタって音はしていました。だからプラグも変えてくださいって言ったのですが……」

僕も負けていられない。
だって僕は、最初からプラグ交換を依頼していたのだから……




 「でも、お客さんが言ったから、こっちも判断した訳で……プラグではないと思いますが、其処まで言うのであれば解りました。プラグを交換しましょう」

店員はそう言って、裏の修理場にバイクを持って行った。


納得がいく訳がない。
第一、僕は此処でバイクを買った訳ではなかったのだ。
僕の愚痴が効いたのか、雨がとうとう降ってきた。




 その自転車屋の前を通りながら、遠方の店へとバイクを走らる。
其処のシールが貼ってあるから、別の店に行く訳にいかないんだ。
僕はこの道を何時もボヤきながら走っていたのだった。




 僕はその翌日も秩父へ向かった。
今度は順調だった。


(何だよ。結局プラグだったんじゃないか。僕が言った通りに換えてくれれば、こんな思いしなくても済んだのに……)

そんなこと思いつつ、雨の国道299号を進んで行く。

秩父から小鹿野へ向かう道は急なカーブの連続で、命の危険を感じた。

とてもじゃないが、優香と一緒に走れる道ではなかった。

僕はやはり考え方が甘いようだ。
もしバイクで回れたなら楽出来る。
そんなことを考えていたのだ。
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