大好きな君へ。
 幾ら歩いても着かなかったはずだ。
その道は果てしなかった。


右、下吉田の標識がある信号を幾つも越えてやっと札所三十番の案内板を見つけた。


「これじゃ迷うはずだ」

思わず独り言を呟く。
優香に怖い思いをさせてしまったから余計だった。




 次に出て来た案内板を右に曲がる。
農場の休憩所のような板張りテラスを左に見て、真っ直ぐに進むと山全体が白くて赤い場所に出会した。


それは水子地蔵だった。
赤い風車が風に回っていた。


「うわっー!!」

僕は悲鳴を上げた。
右も左の斜面も、水子地蔵で埋め尽くされていたのだ。

そんな山が三つ、それ以外の山も切り開かれたていた。


「隼人……ごめん」

まともに見られなくなった僕は、隼人と同じような水子達にも謝りながらバイクのアクセルを吹かせた。




 その先のトンネルを抜けて少し行くと、札所三十番観音寺の駐車場があった。

岩井堂にも匹敵する階段だった。

僕は芭蕉の句碑がある奥の院まで上ってみた。

でも、其処で気が付いた。
携帯のリアカバーが無くなっていたのだった。


納経所に寄って携帯の電池カバーを無くしたことを告げたら、もしあったらとっておいてくれると言われた。




 その帰り、急カーブの上り坂を越えた時に違和感を覚えた。
それはパンクだった。


雨の中必死に転がして山道を下った。


「その先に公衆電話がありますから、其処にある電話帳に自転車屋さんが載っていると思いますが」

そう言ってくれたのは地元の尾田蒔中学校の生徒達だった。


早速電話帳に載っていた自転車屋に片っ端から電話した。


最後に残った一件。
此処が駄目ならバイクを置いて帰るしかない。
そう思っていた。

でも、その人は車で取りに来てくれて直してくれたのだった。


パンクの原因は、空気圧だった。
タイヤに空気が入っていなかったのだ。


説明を受けながら対処法を尋ねてみた。


「オイル交換とかした時に見てもらえますよ」
とその人は言った。


(オイル交換だけじゃない。バッテリーもプラグも換えた。しかも昨日、プラグ交換も依頼した。どうして何もしなかったのか?)

僕はバイクを買わされたショップに不信感を抱いていた。


「後輪だから良かったですね。もし前輪でしたら大怪我をしていたと思いますよ」

実はそのタイヤが最後の一本だったと言う横瀬町の自転車屋さん。

感謝だけでは足りない。
そう感じた。
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