大好きな君へ。
 お舟の観音様に心を残しながら、反対側の大日如来様を目指す。


其処も危険に満ちた行程だった。

岩壁の横の手すりを伝わり、隙間をよじ登る。

最初は何も見えなかった。
徐々に姿を表す大日如来様。
その方は岩を砕いた洞窟の中に鎮座していた。


私達はその前に腰を下ろして祈りを捧げた。

隼が大日如来様に熱心に願をかけると、後光が包み込んだ。


一瞬の出来事だった。
でもその光は確かに存在していた。
大日如来様の後にある大きな輪が光となったのだ。


私は隼が光明真言の御加護をただいたの思った。


「大日如来様。大日如来様。どうか隼を御守りください」


「大日如来様。大日如来様。僕のことより、此処に居る優香を御守りください」

私が願を掛けると隼が追々した。


「僕は罪を犯しました。その罪を一緒に背負うと優香は思っているようです。僕が罪を犯したことにより死亡致しました結夏と胎児だった隼人をお救いください」


「大日如来様。大日如来様。どうか隼人君をお救いください。隼人君が救われれば、結夏さんも安心出来ると思いますので」


「えっ、あの光明真言と地蔵菩薩真君は……」


「そう。隼人君を賽の川原より救い出すためだったの。それが結夏さんの願いだと信じていたから……」


「優香」

隼の手が、私の手を包み込んだ。


「大日如来様。やはり優香は僕にとって過ぎた人です。このような方と巡り合わせていただきましたご恩は決して忘れません。ありがとうございました」

隼はもう一度大日如来様の前にて合掌した。




 下の観音堂の裏にある洞窟に誰か居た。
覗いてみたら、さっき見た岩窟に行けるようだ。

私は早速其処に足を運ぼうと、懸崖造りの脚の下を潜り抜けた。


「上からも来られたようね」

何気に言うと、隼も上の本堂を見上げた。


でも私は其処にある小さなお堂を見て固まった。


その中に居られたのは、足元に二人の子供が纏わり付いた地蔵菩薩様だった。

私にはその一人が隼人君に思えてならなかった。


もう一人はきっと私が望んでいる隼との胎児。


「地蔵菩薩様。地蔵菩薩様。どうか私の願いを叶えてください」

私は膝まづいて必死に祈りを捧げた。

一心不乱に隼人君の転生と私の胎児の……
私は隼との間に双子の子供を望んでいた。


隼は何も知らずに私の傍に寄り添ってくれていた。


私はその時、隼人君を救い出すための今日が必要だったのだと思った。




< 159 / 194 >

この作品をシェア

pagetop