大好きな君へ。
 空はどんよりと雲っていた。
泉田の信号をを北に向かうと暫くして札所三十三番の案内板があった。
私達は其処を右に曲がった。


その先にようばけへと小鹿野化石館への立て札があった。


「ようばけ? なんだか怖そうな名前だな」


「おばけに似てるからか?」


「ようばけとは確か、陽のあたる崖。と言う意味だったかな?」


「陽のあたる崖? それがなんでおばけ?」


「おばけじゃないよ、ようばけだよ」


「何でも崖のことを方言で、はけっ言うそうよ。其処からばけになったんだって。夕日があたると物凄く綺麗なんだってさ」


「だったら、ようばけより、夕ばけ」


「それじゃおばけみたいだな」


「赤平川にある崖で、古代の地層が斜めに見えるそうよ。其処から化石が沢山出土しているんだって」


「だから化石館もある訳だな」


そんな会話をしているうちに気が付いた。
二人が以前のように仲良くなっていることに……




 橋があった。
良く下を見ると、滝らしきものがある。


その先には田んぼがあり、穂が垂れていた。


(もうじき黄金色に染まるのかな?)

そんなことを思っていた。



 平坦な道を進みと、右側に札所三十三番の駐車場が見えて来た。


目指す菊水寺はその反対にあった。


すぐ行こうとする松田さんを征して、まず山門の前に立った。




 私と隼は其処で一礼してから山門を潜り抜け境内に入った。


後ろを見ると、松田さんも同じことをしていた。


その後菊の花を模した手水場で左手右手の順に手を清め、左手の水で口をすすいでから輪袈裟と念珠で身支度を整えた。


「これが正式? 俺、罰当たりなことばかりしていたかも?」

「私達だって同じようなものよ。ただ本に書いてあった通りにしているだけだもの」


「いや、心構えが違う」

松田さんは神妙に言った。


納め札と、写経を所定の箱に入れた後灯明と線香と賽銭を上げた。




 胸の前にて合掌して三礼する。


「うやうやしくみ仏を礼拝してたてまつる」

墨書したメモを松田さんに見せながら、本堂に向かって三人同時に言った。


「次はこれ、開経偈」


「むじょうじんじんみみょうほうひゃくせんまんごうなんそうぐうがこんけんもんとくじゅうじかんげつにょらいしんげつき」


「その次はいよいよ、般若心経よ。納経帳にも記してあるわ」

私がそう言うと、松田さんは自分の納経帳を出していた。

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