大好きな君へ。
 『他人の子供って、まさか代理母? あのね隼。あれはマネージャーが勝手に……』


「違うよ。実は僕には水子がいるんだ。その子に隼人って名前を付けて二人で供養していたんだ」


『隼人って!?』


「優香が名付けてくれたのは親父の名前だった。お袋が隼人から隼と名付けたように、優香は隼に人を足した。どうしても、僕の子供を人にさせたかったんだと思うんだ」


『まさか隼、アナタに子供が!?』


「ごめんお袋。その通りだよ。その人は結ぶ夏って書いて結夏って言うんだ」


『えっ、結夏さん? 真二さんの言ってたアパートの隣の……』


「違うよ、そっちが優香だよ。お袋ごめん、優香に結夏だなんて紛らわしいね」


『そうね。それでは優香さんも勘違いしてしまいそうね』


「でも優香には解るんだ。だから嘘はつけないんだ。結夏は、あっ結ぶ方のね。結夏はストーカー被害にあっていて、再会した時にしがみ付かれたんだ。僕は結夏とそのままマンションへ行ってしまったんだ」


『その時に子供を宿したって訳?』


「そうらしい。でも結夏は子宮外妊娠だったんだ。だから流産して、出血多量で死んでしまっていたんだ」


『いたんだって!?』


「二年前のことだよ。僕は結夏にプロポーズした、『ニューヨークに行って両親の許可をもらおう』って。だから結夏をずっと待っていたんだ。でも結夏はその日に亡くなっていたんだよ」


『そんな……』


「結夏の両親は、結夏のお腹の中にいた胎児の父親が僕だと解っていたようだ。でも僕に迷惑がかかるからって、連絡してくれなかったんだ。だから結夏はストーカーに殺されたってことにされていたんだ」


『で、そのストーカーって逮捕されたの?』


「いや、逮捕されたんだけど無罪放免だよ。だって残されていた体液は僕のだし……」

僕は躊躇いながらも、あのオンボロアパートの傍にある太鼓橋から結夏が落ちた経緯を話し出していた。
勿論、それがストーカーの仕業に見せ掛けた松田さんがであることは伏せて……




 「優香は、結夏の流れた胎児を自分の子宮で育てるって言ってくれた。それが出来るって信じているんだ」

光明真言と地蔵菩薩真言が水子を賽の川原救う。

「胎児と言えど人なんだって。だから供養してあげたいそうだ。たとえそれによって祟られようと構わない」

優香の深い慈愛に満た言葉に思わず目頭を押さえた事実を僕はお袋に伝えた。




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