大好きな君へ。
 『隼、此処で思いっきり遊んでみろ』
叔父はそう言った。
だけどやりたいことなんてなかったんだ。
それに何時マネージャーに見つかり、脅されるかも知れないなんて考えたからだった。


だから何年ももて余していたんだ。




 駅の反対側には自動車教習所があった。
僕は手始めに其処で自動二輪の小型の免許を取ることにした。
暴走族に入る気なんて更々無い。
ただ免許があれば便利だと思っただけだった。


鴻巣と言う試験場で初めて免許を手にした時、すぐにでもバイクが欲しいと思った。
でも高校ではバイク通学は禁止されていたから暫くはペーパーライダーだったんだ。


お客と接触の無いスーパーでの品出しなんかのアルバイトをしながらお金を貯めて、一番安いのを手に入れた。
でもそれが失敗だった。
本当に故障ばかりしてくれる最悪のゼロ半だったのだ。


一年も経たないうちから何度も販売店に通う羽目になったのだった。




 そんな時に結夏と再会した。
だから僕は結夏と出掛けるために、小型バイクに乗り換えたのだった。


そして結夏と共に歩んで行こうと決めたんだ。


一番やりたいのはソフトテニスなんだ。

それは中学校で教職に就けば達成出来るだろう。
未だにそれが主流だからだ。
そう考えた途端に僕の未来は決まった。


もしかしたら、僕は結夏に教えられたのだ。
マネージャーのことばかり考えて封印してしまった本当の夢の在りかを。




 結夏に押し切られた格好にはなったけど、僕は結夏を受け入れた。
結夏と肌を重ねてしまったんだ。
今更だけど……
でもそれがあったから、僕は結夏と生きて行こうと思えたのかも知れない。




 僕は今、新たにその夢へと歩み始めている。

それでも、内定を出してくれたスポーツショップの事務職も捨てがたいと考えていた。

ニューヨークの両親には悪いけど、オーナーに付いて経営も学んでみたいんだ。


オーナーが祖父で、アメリカで行方不明になっていた僕の本当の父が一人息子だったのだからなおのことだ。
将来、僕も後を継げるかも知れないから……

地域で一番大きなスポーツショップが手に入るかも知れないんだ。

こんなチャンス滅多にないし、なりたくてなれるものでもない。


ただ僕の場合、向こうから転がり込んで来たんだ。


将来が約束されるかも知れない絶好の機会が……
これ又安易で、優柔不断な考えだったのだけど。



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