大好きな君へ。
 僕は結夏と結婚をするために体育教師の道を選んだ。


将来を見据えて、本気で結夏との生活を考えていることをアピールするためだった。


これなら学生結婚をしたとしても御両親を説得出来ると考えたからだ。


その上、僕の二つの夢が同時に叶えられるはずだったのだ。


あの時はまだ未成年だった。
だからニューヨークに行って両親の許可をもらおうって思ったのだ。




 結夏にプロポーズした翌日から僕はアメリカに行くための資金の調達を始めた。


叔父やあの女優に迷惑を掛けてはいけないと思ってアルバイトに精を出した。
だから結夏と連絡が頻繁に取らなかったんだ。
結夏なら解ってくれる。
そう思っていたからだった。


メールを送っても返事が来ない。
電話してもなしのつぶてだった。




 高校を卒業してすぐに就職した結夏。
キャリア組とは違い、お茶汲みなどの雑用ばかりさせられていたようだ。


会社にとって大事な仕事も遣らせてはもらえなかった。


だから殆ど定時に退社出来たのだった。


会社のために働きたいに出来ない現状。
それでも結夏はめげなかった。


資格を得るため、懸命に頑張っていたのだ。
だからそれで忙しいんだと思っていた。




 ニューヨークの両親に会いに行くために頑張っていた僕。


体育の家庭教師の他にアルバイトも掛け持ちした。


その前からやっていたことがあった。

それは大手企業の研修施設での食堂の仕事だった。

でもそれはきつかったのだ。


洗い場や調理助手はまだ良かった。

問題は御座敷だった。ずっと中腰だったんだ。

何時かテレビで見た、腰を降ろして作業する方法を試してみた。

たしかに楽なのに、効率が悪いと言われた。


オマケに辞めた後も酷かった。


上の者が小遣い稼ぎをしたんだ。
僕の給料に上乗せして、払い過ぎたからその分を届けるように言ってきたのだ。
それも二ヶ月も……
流石に可笑しいと思ったけど、仕方なく言う通りにしてしまったのだった。


僕が子役だった相澤隼だと知っていて遣るんだから大した人だと思っていた。




 でも本当は失敗したと思っていた。
有名税と言う訳ではないけど、何処へ行ってもあの女優のことを聞かれるんだ。


僕は一々ニューヨークの両親のことを引き合いに出すことに疲れていた。

だから自然に皿洗いのような裏方になってしまったのだった。

だから軽く見られたのかも知れない。




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