大好きな君へ。
 あの女優が代理母だってことはマネージャーに聞いて知っていた。
だから僕を産んだのはあの人なのだ。
それでも僕は目の前にいる二人を本当の親だと信じていたのだ。


『結夏は八月三十一日生まれなんだ。だからその日に結婚したいと思っているんだ』

僕は両親に言っていた。


もし結夏が生きていて、僕と結婚していたら……

僕は優香にときめいたのだろうか?



今更ながらに、その運命を感じる。


ただの優順不断な男の戯言だけど……




 両親は叔父やお袋から学校の成績やソフトテニスで頑張っていることを聞いていたらしい。
だから中学の体育の先生になりたいと言ったら喜ばれた。


『夢が叶うね』
そう言いながら……


あの騒動以来封印してソフトテニス。
体育教師になれば、学校でクラブ活動の顧問として教えられる。
母もそう思ってくれたのだった。




 『お母さん。ずっと僕のお母さんでいてください。僕の母は、お母さん以外居ないのだから』


『ありがとう隼。でも、それで良いの?』


『何言ってるのお母さん。僕は今まで通りにお母さんの子供でいたいんだ。お母さんがイヤでなければの話だけどね』

此処に居る二人が本当の両親だと信じていたあの頃。
僕はそう思った。


それでも僕はニューヨークに住む両親の子供としても、大女優の息子としても生きてみたいと思っていた。

やはり僕はいい加減で懲りない男だったのだ。




 『お袋、頼みがある。僕にとって両親はニューヨークに住む二人なんだ。だから僕の戸籍を移動させてほしい……』

その言葉に嘘はないんだけど……
でも養父の仕事を受け継ぐ訳にはいかない。


商社ともなれば給料は勿論、待遇も違う。

でも出張や長期滞在などが付いて回る。

治安の悪い地域に飛ばされることも有り得るのだ。




 兵役も戦争もない、平和な日本。
そんな場所でのんびり胡座をかいていればいいとは思わない。

だけどそれにどっぷりと浸かっている。
出来れば何も変わらずそのままでいてくれたら嬉しい。


日本だけが平和なら良いわけではないけど……




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