大好きな君へ。
 新婚旅行は秩父に決まった。


『どうしても地蔵菩薩様に会いたいの。それまでお預けね』
だそうだ。

これで初夜は地獄となると決定した。


(ヤだよ。やっと愛し合えるって思ったのに……。それにその日は誕生日じゃないか……)

頭の中でシミュレーションばかりしていたからガッカリもいいとこだ。

だから余計に興奮してしまったのだった。


目の前に優香と言う御馳走をぶる下げられているに我慢しなければならない旦那の気持ちなど解るはずもないんだよ。


そうだよ僕は旦那だよ。

それなに……
優香をいくら抱きたくても抱けないんだ!!




 式が終了した後で宿泊施設に向かった。


「結婚おめでとうございます。なんだか嬉しいわ。新婚旅行先に家を選んでもらえて……」

そう言いながら女将さんは涙を溢してくれた。
僕達はお遍路でお世話になったあの旅館をハネムーン先に選んだのだった。




 お遍路の時には二組敷かれていた夜具が一組になっていた。


優香ははにかみながらそっと布団を捲り、僕と指を絡めて夜具に潜った。


恥じらいながら俯く優香がまた可愛いんだ。


(優香……。僕は本当は怖いんだ。優香に触れることが……。優香と触れ合うことが……。結夏のように、突然居なくなるような気がしてならないんだ。それでも今。優香を抱きたい)

頭に血が上り、心臓がバクバクしてる。

興奮しっぱなしで眠れる訳がない。


(優香……今日が僕の誕生日だってこと忘れたんかい? プレゼントなんていらないから……君が欲しいよ)

イヤな男だと思う。
でも……
初夜に手も足も出せない僕の身にもなってくれよ。

僕は新婚早々嘆いていた。




 僕は朝まで一睡も出来ずにいた。


多種多様の思いが交錯する。
此処まで辿り着けた軌跡が過った。


結夏と再会した駅前のキャッシュコーナー。
突然僕にしがみ付いた結夏に戸惑った。
それでも僕は結夏を家に招き入れて肌を重ねてしまったのだった。




 炊飯器と電子レンジだけは叔父のプレゼントたけど……
結夏と生活する前提で購入した冷蔵庫や家電。

その全てを優香は残してくれた。


『壊れてもいないのを処分するに抵抗がある』と優香は言った。
だけど……
本当はイヤなんだと思う。


『だって勿体ないでしょう?』って念を押すように発言した。

その中に、結夏との思い出を大切に考えてくれている優香の優しさが溢れていると僕は感じたんだ。



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