大好きな君へ。
 狭くて軋むソファーベッドの上で、結夏に隼人を誕生させた僕。
本当の贖罪は今始まるのかも知れない。


優香を精一杯愛することで、その罪から逃れられるなら嬉しいのだけど……
そんなうまい話などある訳がない。
だから僕は夕べ、誠実に生きることを優香の寝顔に誓った。




 孔明の兄貴に、あの警察官が紹介した仕事先で頑張っていると告げられた。
その際、結夏の事件の真相も打ち明けられた。


エイズ撲滅キャンペーンイベントで孝明の兄貴はスキンとポケットティッシュを貰った。
それを何気にポケットに入れていたそうだ。


そんな時に結夏がストーカー被害に合っていることを知ったらしい。
孝明の兄貴は偶々結夏の後を付けていた男性を目撃したようだ。




 事件当日。
アイスクリームショップで彼を見掛けた時に鳥肌が立ったそうだ。
ストーカーと言う存在だけで性犯罪と結び付けていたからだ。

身体が異常に興奮して制御出来なくなった孔明の兄貴はスーパーのトイレに駆け込みそれを解消した。


その時使用したスキンを其処に棄てる訳にもいかずにティッシュペーパーに包んでポケットに仕舞い込んだのだ。


何故そんなことをしたのか解らないそうだ。
奥さんと別れてから一度も女性と関係を持たなかったから、スキンを試してみたくなったようだ。


(きっと奥さんのことを思い出しながらやったのだろう?)
僕はそう思った。


元々孝明の兄貴は真面目な人間で、奥さん一筋だったのだ。




 スーパーから出て、彼の視線の先に結夏を見つけた時にドキッとした。
結夏があまりにも大人びていたからだった。


トイレで一応処理はしたけど、まだ興奮状態だったのだ。
だからストーカーがどんな手を使うのか見てみたくなったのだ。
でもストーカーは動く気配がなかった。
だから後を付けるところを目撃させたのだ。


結夏は可愛い妹みたいな存在だった。
でも最近冷たいと感じていたのだ。
だからストーカーを焚き付けて結夏をいたぶるつもりだったのだ。


結夏を困らせてやる。
それしか孔明の兄貴にはなかったようだった。


でもそんな孝明の兄貴もやっと闇から抜けることが出来たようだ。
やはり、奥さんと翔のお陰なのだろう。


何時か翔の背中に翼があったことを思い出した。
翔だけではない。
あの翼できっと、家族全員が飛び立つ日が来ると感じていた。




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