大好きな君へ。
 その手を優香がきつく握った。


「ねえ、隼聞いて。私、仕事をしたいの」

優香は突然言い出した。


「保育士の? だったら優香の思いの通りにしてみたら? だって優香の夢は原島先生のようになることなんだろう?」


「隼、何も知らないの?」

優香はそう言いながら目を伏せた。


「私が原島先生に憧れたのは、隼が大好きだったからよ。だって隼は何時も原島先生と一緒にいたでしょう? だから、羨ましかったの。だからブランコで隼に苦痛を与えてしまった自分が許せなかったの」


「優香……」

僕は優香の優しさに泣いていた。


「私は隼人君が私の子宮の中にやって来てくれることを願っている。出来れば男女の双子で……。あの地蔵菩薩様に取りすがっていた子供達をどうしても救いたくなったの」

それは僕も感じていた。
だから……
堪え切れずに、思わず嗚咽を漏らしていた。
もうそれは単なる泣き声では済まなくなった。


「声を上げて泣いてもいいのよ。結夏さんのことを思い出したのでしょう? 私のことを思ってくれていることは解るけどね」


「まるで泣けって言ってるみたいだな」

照れ隠しにそう言う僕の髪へ、優香は優しく手を伸ばした。


「違うよ優香……結夏のことを思い出した訳ではないんだ。優香があまりにも優し過ぎるからだよ。優香のお母さんが僕を遠ざけたのは、この前あのアパートで話した代理母騒動のせいでブランコのせいじゃないんだ。だからもう自分を責めないで……」


「ありがとう隼」
その言葉は泣き声のように聞こえた。


「でも隼。私が仕事をやるからには、セーブしなければいけないことがあるの」


「何? 僕が出来ることだったら応援するよ」

僕は保育園で子供達と遊んでいた優香を思い出してあれこれ考えていた。




 「ねえ隼。怒らないで聞いてね。私双子が欲しいの。それも男女で。もし出来たとしたら、帝王切開にしたいの」


「帝王切開!?」
優香の突拍子のない発言に思わず仰け反った。


「お腹を切って出してもらうの。そうすれば卵菅を縛ってもらえるでしょう? 隼と安全日なんか気にしないで思いっきり愛し合いたいからなの」

それがあの日優香が遠い目をしていた真相だった。
優香は本気で将来を見据えていたのだ。


子供が授かる度に産休を取らなくてはいけない。
権利だと言ってしまえば済む話しではないのだ。



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