大好きな君へ。
 「あはははは。ねぇ隼、そっちに行っていい?」


(結夏!?)

突然の優香の発言にドキンとした時、思わず『結夏!!』って叫びたくなった。


もしかしたら、あの夢の中の結夏の言葉を優香に話したのかとさえ思ってしまった。
だから必死に考えた。
でもそんな覚えはなかった。

だから耐えたんだ。
又結夏を思い出したなんてことを言って、もうこれ以上優香を苦しめたくなかったからだ。


(ごめん結夏。キミのことこの一時だけ忘れさせてくれ)

僕は結夏に謝った。
優香に対しても、許しをこわなければいけないと考えていた。


(ん!? さっき優香、何て言った!? 確か此方に来るって言わなかったか?)

僕はその途端に開き直った。


(そうだ。浮気封じのためにももう一度君を堪能させてくれ)
勿論、浮気する気なんて更々ないけどね。


何もなかったような振りをする。

僕は下心を隠して優香の体を引き寄せた。


「あん、隼ズルい……」

優香はくすぐったそうな声を上げながら、僕に身を任せた。
僕はそれを良いことに、そっと肌を重ねた。


甘い甘い、初夜じゃない一夜の続き。
その初夜がなかった分だけ燃え上がる。
止まらなくなるほど抑揚していた。




 「今、結夏さんのこと考えていたでしょう?」
どうやら優香にカマを掛けられたらしい。


「オバサンが言っていたの。結夏さんね、隼がプロポーズした日に初めて付き合っているって電話で話したらしいの。その時、お腹に赤ちゃんがお腹の中にいることも打ち明けたんだって。結夏さんきっと嬉しくて、家に帰るまで待ちきれなかったなかな?」


「だから、僕が父親だと知っていたのか?」


「そうみたいね。その時結夏さん、『隼には言わないで』って言ってたみたい。『隼に迷惑を掛けたくない』そうも言っていたみたい」


「だから僕は何も知らずに……。でも僕は卑怯だな。二年近く何も行動を起こさなかった。ただ、結夏を待っていただけなんて、最低の奴だな」


「そんなことないわ。実はオバサンに預かった手紙があるの」

そう言いながら優香は結夏の手紙を差し出した。


それは『大好きな隼へ。』で始まる、学生時代からの馴染みのある文字で綴られていた。




 「ごめんね。隠していた訳ではないんだけど……オバサンから、本当の夫婦になった時に渡してあげてって頼まれていたの」

優香は肩を竦めるように言った。




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