大好きな君へ。
 『隼。此処で思いっきり遊んでみろ』

このマンションを僕に貸す時に叔父は言った。


『男たるもの、小さく縮こまっていてはいけない』

そう言いながら、ある男性のアルバムを見せてくれた。


その人は大学時代の友人で、ライトバンの上に普通車の屋根を溶接してキャンピングカーを手作りしたそうだ。


『それでアメリカ大陸を横断する。そんなでっかい夢の持ち主だった』

叔父の語るその人は叔父の中で生きていた。


何故そう感じたかと言うと、その人はアメリカで行方不明になっていたからだった。


生死も解らないその友人を叔父はずっと探し続けていたのだ。




 僕はその人に何故か興味を抱いた。
僕もそんな生き方をしたいと思ったんだ。
いつの間にかその人が僕の中にも入り込んでいた。


今も出来ていないと思うけど、未だに僕の憧れの人なのだ。





 車を改良したり手を加えたりした場合、次の車検は通らないそうだ。
だからその人は廃車しても良い素材を探して合体させたのだ。
是が非でもアメリカへ行く気だったようだ。


そして……
その人はアメリカへと渡ったままに行方不明になってしまったのだった。


もしかしたら叔父のアメリカ行きは、その友人を探すためなのかも知れない。
ふとそう思った。




 清貧の思想って本があるそうだ。
清く貧しく美しく……
みたいな物かな?

その人はそれを貫いていたようだ。


あのオンボロアパートがまだそんなにも古くなかった頃、叔父は良く其処で寝泊まりしていたらしい。


って言うことは、あのアパートはその人が借りていた物だったのだ。


叔父は行方不明になった親友が日本に帰って来た時のためにその人の部屋を残しておきたかったようだ。


だから今でもずっとあのアパートで暮らしているのだった。


だから僕はその日のために和室を使用していなかったのだ。


叔父とその人は掛がえのない絆で結ばれていた。
それが判るから……
あの部屋は、叔父のために空けてあるんだ。


結夏と優香には悪いけど、僕が本当に暮らしたいのは叔父なのかも知れない。


図書館で何気にチラシを見ていたら、あのマンションの賃貸物件が掲載されていた。
四万八千円から四万五千円に下げたそうだ。
僕はその半分も叔父に払っていなかったのだ。



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