大好きな君へ。
 この部屋にやっと優香がやって来る。
だから、朝からソワソワしっぱなしなのだ。


エロ本やDVDなんかは片付けた。
一応男だから、人並み程度の物は持っていたんだ。
ま、殆どが孔明から押し付けられた物だけどね。


高校時代の物やら、最近の物まである。


特に結夏のことを知って以来、急激に増えてしまったのだ。


孔明とは高校まで一緒だった。
同じテニス部に所属してお互いがライバル視していたんだ。


そんなよしみなのか……
それとも僕を慰めてくれるためなのか……


孔明の行為は嬉しい。
でも結夏の居なくなった傷みをそう言う類いの物で埋められるはずもなく、却って辛くなることは解ってはいたのだけれど……

それでも、仕方なく、受け取っていたんだ。




 時々出しては眺めていた結夏の写真も閉まった。
優香に知られるのが怖い訳ではない。
でも、優香に対する礼儀礼だと思ったのだ。

本当は結夏に対しても失礼極まりない行為だと自覚してはいたのだけど……


心と身体を求め合い、僕達は一つに繋がった。
あの日があるからこそ、今の苦しみがあるのだ。




 今か今かと待っていたら、下のインターフォンから着いたと連絡があった。


僕の寝具はソファーベッドだ。

ベッドマットなどを片付け、久し振りにソファーにした。


結夏の作ってくれたクッションカバーは、大雑把に縫った割には何とか機能してる。
僕はそれを抱き締めながら、優香の到着を待っていた。




 「遅れてごめんね」
そう言いながら入って来た優香。

手には大きな荷物を下げていた。


「なあに、それ?」


「隼に美味しい物を作ってあげるって約束したでしょう? 今日は腕を奮うわ」


「やったー。何を食べさせてくれるのかな?」


「それは後のお楽しみ」

優香はウインクをして、持参したエプロンに袖を通した。




 「オーブントースター確かあるって言っていたわよね?」


「うん。流しの横だよ。電子レンジはその隣」

それらを目で確認してから優香は流し台の前に立った。


優香はまずボールとフライパンを洗った。


……コンコン、カチャ。

玉子を割る音がする。


……グツグツ。

今度は洗った鍋で何かを煮始めた。


(何をやっているんだろう?)

音だけでは解るはずがないから本当は覗きたい。
でも、じっと我慢した。


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