大好きな君へ。
 あの部屋の至るところにある結夏との思い出は消せそうもない。

そんな僕を優香は許してくれるのだろうか?

まだ優香の気持ちを聞いてもいないのに独りで先走っている僕。

本当にアホだと思う。


だって僕はまだ学生で、就職先も決まっていないのだから。




 僕は結夏に押しきられてあの部屋に招き入れてしまった。

そして肌を重ねてしまった。


そんなのは言い訳だ。
結夏を愛した事実は変えようもない。


あのカーテンだって冷蔵庫だって今乗っている小型バイクだって、結夏との思い出が刻まれている。


だから僕は優香の前でも結夏と言ってしまっているのだ。




 『あはははは』

結夏は何時も豪快に笑ってた。
あんなに苦しい思いをしていたに、僕の前では常に笑顔だった。


だから……
気付いてやれなかった。


苦しい弁解だ。
でもあの時の僕に何が出来た?


何も知らされなかった辛さなんか、誰も判ってはくれないだろう。


結夏のことを思うと、胸が張り裂けそうになる。


僕が初めて全身全霊で愛した人だ。
そうだよ。
結夏は僕の掛がえのない恋人だったんだ。


それにしても何故結夏は笑っていられたのだろうか?
ストーカーにずっと悩まされていたと言うに……


僕はハローワークに提出した資料のコピーを見ながらずっと結夏のことを考えていた。




 結夏にとって僕は一体どんな存在だったのだろうか?

そして御両親は僕のことをどんな風に見ていたのだろうか?

そう考えて、ふと思いついた。
結夏が僕の前から突然いなくなってから、何の対処もしてこなかった事実に……
二年も、二年近くも結夏を放っておいた事実に。


僕は最低最悪な男だったのだ。




 そんなヤツが今度は優香と暮らしたがっている。

今日ハローワークへ来たのだって、その一貫なのだから……

運良く内定でももらえれば優香との将来は明るい。

そんなこと考えて此処に来ていたのだ。




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