大好きな君へ。
 「日程は此方です」

目の前で業者の方に連絡を入れていた受け付の女性は、面接時間など決まった内容の書類を渡してくれた。

別に事務職を得るために此処に来た訳ではない。

それでも引っ込みが着かなくなっていた。


「必ず行きますので、よろしくお願い致します」
それでもそんなありきたりな返事をしていた。


(必ず行くか?)

その時ふと、自分で自分の首を絞めていると感じた。

だけど、身から出た錆びなのだから……
仕方ない。


(何で事務なんて言っちゃたんだろう?)

今更後悔しても仕方ないのに、僕はずっとクヨクヨしていた。


本当は、やりたい仕事なんてないんだ。
子役の時、大人の世界を垣間見たからかな?
仕事に興味が湧かないんだ。

それでも授業の一貫としてスポーツインストラクターの資格など取得出来る物は全て手に入れていた。

僕の将来に何が役に立つか判らないからだ。


結婚したくて、体育の教師の話を結夏に語った。
その時から僕の将来の夢はそれになった。
結夏と学生結婚したかった。
それが最も早く結夏を手に入れられると思ったのだった。


(やっぱり僕は優柔不断なのかな?)

そんなことを考えつつ、僕は面接の日程表を受け取ってからハローワークを後にしていた。




 僕は四年制の大学の最終学歴だった。


スポーツ・健康科学部に通っている。

其処は、理論と実践を通して人体について幅広い知識を修得出来るとあった。

何をしたいのか解らなかった僕は、地元にある一番入り易い大学を選んでいたのだ。

ほぼ駅前と言っても過言ではない立地。
其処に住んでいながら、電車通学だけはしたくなかったのだ。


パンフレットなどにによると、就職は医療や研究教育現場などの他にインストラクターなどで幅広い分野で活躍出来るそうだ。


でも……
東京なら通じるスポーツインストラクターの仕事が地元にはないのだ。

それが一番辛いんだ。


たまたま今日の時点でなかっただけなのかも知れないけど……



 僕はこの街が好きだ。
出来ればずっと住み続けたい。
お世辞でも何でもない。
本当に僕はそう思っていたのだ。




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