大好きな君へ。
☆結夏を傷付けた者
 数日後。
僕はスポーツ用品販売店の前にいた。


『必ず行きます』
そう言った手前、行かない訳にはいかなかったのだ。


「あれっ、此処って?」

其処は中学でテニスを始めた時に叔父に連れて来られた店だった。


僕はソフトテニス部に所属していた。
ダブルスで組んだ相方のお陰でかなり良い成績を残したんだ。

でも、高校では無いので仕方なく硬式テニス部に入っていたのだった。


そう言ってしまえば格好は付く。
でも、ソフトテニスを辞めた理由はそれだけではない。


それは、タブロイド誌のソフトテニスの王子様騒動だったのだ。


僕は子役の時に冷凍ハンバーグのコマーシャルに出演した。

その時の演出が頭に冠を着けた王子様役だったのだ。


だから、それをパロディー化したのだ。
【芸能界から突然姿を消したあの大女優の息子。ソフトテニスの王子様として復活】
って……




 あの頃と変わりなく、店内には多くの商品が並んでいた。


「あのー、此方の事務の面接に来た者ですが……」

お客が来たと勘違いして出てきた店員に向かって言った。


「あ、はい聞いてます。此方へどうぞ」

少しがっかりしたのか、店員は心なしか寂しそうに映った。

店の奥に僕を案内してくれる時、チラチラと見た態度が気になる。


(僕のことを思い出せないんだなー。昔子役をしていた相澤隼だって言おうかな?)

自意識過剰かなと思ったけど、何時もこのパターンが多かったのだ。




 奥のスペースには面接会場が作られていた。
と、言っても普通のテーブルに椅子が置いてあっただけだけど。


「相澤隼君ね。君、何処かで会ったことある?」


「えっ、相澤隼!? 店長。ほら、子役だった相澤隼君よ。やっと思い出したわ」


「あぁ、あの相澤隼君ね。あれ、でも何か違う気がするな」

店長は首を傾げた。




 「………………」

店員が店長に向かって何かを言っていた。

悪いと思いながらも僕は聞き耳を立てた。


「店長、絶対に彼を雇うべきです。ほら、あれですよ。あの人は今? 何て番組に出たら、この店もっと有名になりますよ」

店員はそう言っていた。


「ようし、採用決定」


「へ?」

あまりに驚き、僕は震え出した。


(ヤだよ。そんな理由で雇われるなんて最悪だよ)

たとえそれが有名税だったとしても、あまりにも酷い……

僕は泣き出したくなっていた。




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