大好きな君へ。
 「あれっ君、スポーツ全般だけじゃなくてテニスのインストラクターの資格もあるの? だったら手伝ってくれる? うちはスポーツクラブも経営しているんだ。この仕事に馴れるためのアルバイトみたいなもんかな?」

店長はそう言い出した。


僕は仕方なく頷いた。
スポーツクラブのインストラクターはやってみたかった。

だから僕はハローワークに行ったのだ。
でももしテニスのインストラクターだったらなお嬉しいのだけど……




 早速大学へ行き、何時も心配してくれていた進路相談員の先生にどうにか内定を貰ったことを伝えた。

最悪な結果だけど仕方ない。

いや、仕方ないでは済ませたくない。

これで一生が決まるかも知れないんだから……


でも、インストラクターの仕事には魅力を感じていた。




 「実は、其処の系列のスポーツクラブでインストラクターのアルバイトをすることになりそうです」


「ああ、彼処はこの辺では一番の大手だからな」


「先生知っているのですか?」


「何言ってるんだ。君もお世話になっただろう。ほら、テニスコートを改装した時使用させて貰った所だよ」


「えっ!?」

僕は言葉を失った。


そのテニスコートは市内で一番大きくて、インストラクターの指導も親切だったのだ。
本当は僕は彼処で働きたかったのだ。


まだ其処かどうかは判らないけど、何だかソワソワしてきていた。




 「それにしてもハローワークとは……」


「すいません。実は其処へ行く前日、先生が一押しした事業所から不採用通知が届き落ち込んでいまして……」


「又ダメだったか……」


「はい。何が悪いのか判りませんが」


「君のような真面目な生徒こそ、雇うべきだと思うけどね」

そんなこと言われたらお世辞でも嬉しい。

僕は少し有頂天になっていた。


「私はまだ諦めきれないよ。君のような人こそ将来を背負う若者に教えるべきだと思うんだが」


「体育の先生ですか? せっかくスポーツ科学科を専攻しているに勿体無いとは思いますが……」

そう……
結夏との結婚を考えて、僕は学校の体育の先生になろうとしていたのだった。

優柔不断な男の決断だったのだ。

その意欲は結夏の死を知った時点で消滅していた。


就活をしながら、教育実習もこなすにはこなしていたのだが……


「実は準備は整っているにはいるのですが……」




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