大好きな君へ。
 「まさか、その腹いせにか? そんなことで結夏は狙われたのか!?」


「僕が悪いんです。僕さえ後を付けなかったら」


「でも兄貴は結夏を犯してはいないそうなんだ。出任せだと思うけど」


「でもスキンが……」


「そうなんだ。確かに兄貴は、ストーカーの仕業に見せ掛けようとしていたんだ。だからスキンも用意していたと思うんだ。でも、太鼓橋の隙間から落ちた結夏を助けに行こうとした時、階段で……」


「その場でマスターベーションか? 結夏が苦しんでいるに良く遣れるよね」

僕はそう言った後で考えた。
だったら結夏の体内に残っていた体液の持ち主は誰かと言うことを……


それは僕のだった。
それしか思い付かなかった。




 あの日僕は結夏と肌を重ねた。
出来上がったばかりの遮光性のカーテンを閉めて思いっきり結夏と愛し合ったんだ。

結局、結夏を傷付けたのは自分なのかも知れない。


『お天道様が見ている』

結夏は何時も言っていた。
だから、弾けたんだ。


スーパーから見える東側の窓に掛かる遮光性のカーテン。
それでやっと隠せた産まれたまんまの結夏のキレイな身体。

その全てで僕を愛してくれたんだ。




 もしかしたら、結夏が気にしていたのはお天道様だけではなかったのだろう。


きっと、その窓の下で見ているかも知れない誰かさんからも隠したのかったのだ。


(でもコイツ、そんなには悪いヤツに見えないけどな)

でもそれは男の直感。
結夏から見たら恐怖だったに違いない。
ストーカーを見ながらそう思った。




 でもそんな事実を話せる訳がない。
僕は卑怯にも知らんぷりを決めることにしたのだった。

幸いなことに僕は事情徴収をされてはいない。
黙ってさえいれば体液の持ち主が僕だと気付かれることはないだろう。
僕はたかを括っていた。




 もっと苦しめば良いと思っていた。
結夏を死に追いやっておきながら、その事実を二年も隠していた孔明の兄貴を許せるはずなどなかったのだった。


その二年。
何も行動を起こさなかった僕の罪は棚上げにした。
本当は詫びなければならないのは僕だったのだ。


(結夏ごめんな。僕はどうやら責任を転換する癖があるようだ。本当に悪いのは他でもない、この僕なのに……)

それでも僕は、目の前で盛んに謝るストーカーに全ての罪を押し付けようとしていた。
結夏の居なくなった傷みを軽減させるかのように……




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