大好きな君へ。
 (隼一体何を言いたいの? 私……隼の傍に居ても良いの?)

そう思いつつも首を振った。

期待と不安が交互にやって来て、心が悲鳴を上げていた。




 結夏さんのお墓に隼と二人で向かう。

お寺の水入れを借りようと探してみたけど見当たらなかったので、さっきまで私が使っていたのを用意した。


「結夏さんの法事があるなんて知らなかったから、持ってきたお花全部ママにあげちゃった」
私は嘘を言った。
ママが亡くなったのは事実だったけど……


「えっ!? 優香のお母さん亡くなったの?」


「うん。私が短大に進む前に。だから私短大に行くの諦めようとしたの。そしたらパパが『優香の夢は保育士だろ。大丈夫、パパに任せろ』って言ってくれたの」

私の夢には何時も園長先生の影があった。

私は隼を抱き締めていた原島先生に憧れていたのだった。


私が物影から見つめることしか出来なかった隼。

その隼を原島先生は……
抱き締めていたのだ。

私が翔君を抱くように……




 「ゆうか……やっと就職が決まりそうだよ」

私なのか、結夏さんに話し掛けているのかが解らない。
それでもそれは嬉しい報告だった。


「えっ!? 就職が決まったのですか?」


「いや、まだ……正式には。スポーツ用品の販売店なんだ。店長は、僕のこと気に入ったようで、面接した日に即決で採用されたんだ」


「わあ、凄い。おめでとうございます」


「どころが、そんなにめでたくもないんだ」


「え、どうしてですか?」


「店員が言ったんだよ。『あの人は今? 何て番組に出たら、この店もっと有名になりますよ』ってね。それで採用されたんだ」

隼の返事に一瞬言葉を失った。


「あはははは」
それでも私は笑い出した。

その時一瞬、隼の顔が引き吊った。


「結夏……」

突然隼は呟いて、私の体を抱き締めた。


「辞めてください。私……結夏さんじゃない」
私はつい、言っていた。




 私の言葉を受け、隼はすぐに体を離した。


「ごめん、優香。でも今のは結夏に言った訳じゃない」


「そんな言い訳辞めてください。私と彼女が同じ名前だから、気が付かないと思っているらしいけど……そんなの聞いてりゃ解るのよ」

そう……解ってしまったんだ。


「優香お願いだから僕の言うことを聞いてくれ」

隼は私の手を取った。



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