大好きな君へ。
 「今度は君のママへの報告だ。優香……僕を案内してくれないか?」

頷きながら手を取ると、隼が指を絡める。温かくて切なくて、胸がキューンとした。




 お墓に行く道は狭い。

一人がやっと歩ける位の幅しかなかったのだった。


「あっ!?」

中野家のお墓に行って驚いた。
さっき手向けた花が花生けから飛び出していたからだ。


「あっはははは。何て言うか、優香らしい」


「何よ。優香らしいって、私のことどんだけ知っているの?」


「ごめん。笑って……。だって、お墓の花が紫陽花だなんて……」

隼は又笑い出した。


「庭に咲いていたの。だってお花でも待って行かないカッコ付かないじゃない」


「ん? そのカッコって何だよ」


「だってさ。結夏さんの三回忌の様子を見に来たなんて、隼に知られたくなかったのよ」


「優香……」

隼の言葉を聞いて、私はとんでもないことを言ってしまったことを自覚した。


「隼のことが大好きだから、結夏さんに嫉妬してたの。私が敵う相手ではないけど、隼に振り向いてもらいたくて……」


「優香」

次の瞬間、隼は私を抱き締めた。


「ダメ、ママが見てる」


「見せ付けてやろうよ。僕達はお互いが、こんなに思い合ってるってことを」

そう言いながら隼は私の唇を奪った。




 私は隼の大学を見てみたくて、七月の最終日曜日にオープンキャンパスに出掛けた。

年四回あるそれは、出入り自由なのだそうだ。


隼が体験学習時、私にときめいたと言う一つ手前のバス停で降りる。

隼と孔明さんがバイク押し上がった坂はきつい。
はるか遠く空中通路が見える。でも出入口は意外と近かった。
ずっと先だと思い込んでいた私は、拍子抜けを食らった。


(そう言えば孔明さん、わりと早く戻って来たんだったわ。だから翔君喜んでいたな。あの子、孔明さんが大好きだから……)


そんなことを考えながら暫く歩いて行くと調整池があった。

その周りで良くパンを食べるって言ってた隼。

早速降りて体験した。




 (翔君のお父さん釈放されて良かったな。孔明さんも一安心しているわね)


結局、証拠不十分。結夏さんは落とされたのではなく、自分から落ちたのだと結論されたのだった。


隼が翔君に語った命の大切さ。
その隼の恋人の命が父親に追われたために失われたと知った時、翔君はきっと傷付くと思う。
翔君は孔明さんのお兄さんの長男だったのだ。
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