大好きな君へ。
秩父へ
 僕達は八月二十四日の朝早くマンションの和室にいた。


八月十五日の土曜日から数えると丁度十日目だ。


優香が水子供養を言い出したのは、十三日だった。
何故翌日から行わなかったのかと言うと、結夏の御両親と優香の父親に許しをもらうためだった。


優香が朝早くから僕の部屋に来ることを許可してもらいたかったのだ。




 僕は本当は、宝くじの当選金が今のジャンボミニより僅かだったことを知っている。

本当はマンションを一つしか購入しなかったことも知っている。
その当時はまだ、今より高額だったんだ。
だから買えなかったんだ。
でも叔父は僕に負担を掛けまいとしてくれている。


だから僕は……
この和室を使わないことに決めたんだ。


でも、隼人のためだけに使わせてもらうことにしたのだった。




 おばさんには二人の気持ちをありのままに伝えることにした。


おばさんは優香の優しさに触れて泣いていた。


何故優香が水子供養を言い出したのかと言うと……
実はまだ、あの続きがあったのだ。


それは、結夏の流れた子供を自分のお腹で育てることだったのだ。


それにはまず、賽の川原から隼人を救い出すことからしなければいけなかったのだ。




 隼人之霊と記した横十ございますセンチ縦五センチの半紙で作った紙を南側に立て掛けた。


東でも南でも良いそうだ。

だったら極楽浄土とされる西に対して、地獄とされる東には置きたくなっかたのだ。


東尋坊と言う名所がある。

地獄に匹敵するとしてこの東が使われたそうだ。




 蝋燭に火を灯し、線香にも火を着ける。


お水とご飯をお供えしてから供養が始まった。


光明真言を一度、地蔵菩薩真言を三度唱える。




 供養が済んだら、歩きで駅に向かった。

こう言う時にあのマンションは便利だ。


だから僕は秩父へお遍路に向かう時も優香を泊めたいと思ったのだった。


勿論、優香の父親には許しをもらっていた。

だからこそ、身はキレイにしておこうと思ったのだった。


優香はこの日、保育園を休んだ。
それは、どうしても結夏達を供養したいとの願いを園長先生が理解してくれたからだった。


何十年ぶりかのW台風が沖縄と九州に近付き、太平洋を北上している。
だから出発出来るか心配だった。
でもどうにか持ちそうだ。


僕達は全ての人達に感謝しながら、駅に続く階段を上って行った。




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