大好きな君へ。
 秩父駅前で時計を確認すると十時十分になっていた。


一番札所の四萬部寺へ行くのには、三沢経由皆野行きと定峰行きがあることは知っていた。
後三十分もすれば来るようなのでローベンチに座った。




 秩父駅から出たバスは駅のロータリーを左に曲がった。
すぐ右手に秩父神社がある。
その左手には秩父夜祭り会館。
その先の信号を左に行くと線路があった。


「あっ、其処に札所十五番って書いてあった」


「あっ、今度は十一番だって」


その先の信号を左に折れると、次のバス停は札所十番だった。


深沢、語歌橋、横瀬上、下と続き……
金昌寺バス停になった。


「此さっき降りた人が教えてくれたの。これが子育て観音だって」

優香は駅で貰った秩父札所サイクル巡礼の案内図を僕に見せた。

その観音様は少し変わっていて、胸に子供を抱いた。




 定峰行きは、栃谷から真っ直ぐ定峰峠入口まで向かう。

三沢経由皆野行きはそのバス停の先を左に曲がる。


僕達の乗ったバスはその先を曲がり札所一番前で止まった。


「一つ先のバス停でも良いって聞いていたけど、結局正解だったかな?」
優香が嬉しそうに言った。




 秩父札所一番四萬部寺の階段を上る。


山門の向こうの境内は人で埋め尽くされているはずだった。
でも結構ゆとりがあった。


僕はまず、お釈迦様の像に案内した。


「明治時代に盗まれたそうだよ。それを銀座で見つけて買い戻したんだってさ」

それはおばさんからの受け売りだった。


実は去年は大雪に見舞われた秩父地方。
それでも御開帳の幕は開いたそうだ。
でも体力のことを考慮してゴールデンウイーク明けから回り始めたそうだ。
その時、花祭りをしていたそうだ。
花祭りって言うのはお釈迦様の生まれた日だそうだ。
普通は四月八日なのだそうだ。
だから驚いたとおばさんは言っていた。


その時に、お釈迦様の里帰りの話を聞いたそうなのだ。

僕にはこの可愛らしいお釈迦様が結夏のように映っていた。




 「何だか施食殿が回転しているように見えるね」


「おばさんから借りて来たパンフレットには、各宗派の僧侶によって読経供養の功徳力により八画輪蔵が静かに回転するとか書いてあったな。もしかしたらこれがそうなのかも知れない」

下に四人入っているから回る。とも聞いてはいたけど……


僕達はただひたすら祈りを捧げた。
結夏と流れた子供の霊の安泰を願って……




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