大好きな君へ。
 西暦五百三十八年に中国より伝来した仏教。
形を変えて今も受け継がれている。
その一つがこの御施食ではないのかと思った。


ごった返した境内脇の納経所の中に入って札所回りのパンフレットをもらった。

秩父札所めぐりと、サイクル巡礼。
二つそれぞれに道順が記されていた。
でもそれだけでは心もとないので図書館で詳しく書かれている本を借りることにした。




 本殿の裏に回ってみると、小さなお地蔵様が沢山並んでいた。

思わず手を合わせた。
それは紛れもなく、水子の霊を慰めるために安置された物のようだ。


「水子地蔵の身に付けている物は持ち帰らないでください。だって」


「普通、持っては帰らないだろう?」

そう言いながら考えた。


それでも、一緒に居たいって思う人もいるのではないのかと……




 大施食供養会終了後、歩いて帰ることにした。

三沢方面から来るバスも栃谷停留所から乗るバスもきっと満席だと判断したのだ。

その上、渋滞して何時秩父駅まで辿り着いけるか解らないからだ。




 優香が駅で貰った秩父札所サイクル巡礼に書かれていた地図を頼りに、和銅黒谷駅まで行くことにした。

それは来月此処に訪れる際の目安になってくれると思っていた。


「九月の五連休のシュミレーションになるかもね」


何気に彼女が言った。


それは彼女が言い出したことだった。
今年は敬老の日と、秋分の日が合体して、五月並の連休になるんだ。


『だからその時にお遍路にでましょう。きっと少しは涼しくなっているはずだから』って。

僕は彼女の言葉が嬉しくて泣いてしまったんだ。




 たとえ長い道程でも二人で歩けば天国に変わる。
僕はそう思っていた。


でも、炎天下は容赦く二人に試練を与えた。


それでも幸せにだった。
自然に笑顔になる。


「来月は必ず来ようね」

優香の言葉に頷きながら、僕は一番から続く道程を頭に画いていた。




 やっと国道まで辿り着いた僕達は一気に和銅黒谷駅に向かった。


まだ電車の到着時間までには余裕があったので、国道脇にあった自動販売機で冷たいドリンクを購入した。




 その時、二人の会話を閉ざすように携帯が鳴る。
表示も見ずに渋々出ると懐かしい声がした。


『もしもし隼元気か?』

その声の持ち主はアメリカに行っている叔父だ。


「叔父さんどうしたの心配してたんだよ」

僕は嬉しさの余り泣きそうになっていた。




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