大好きな君へ。
 『ごめん、ごめん。やっと帰れそうだから、悪いけどあの部屋に空気入れておいてくれないか?』


「うん、解った。今出先だから、帰ったらすぐやっておくよ。鍵は何時ものトコだよね」


『ああそうだ、よろしく頼むよ』

叔父はそう言って電話を切った。


「おじさま?」


「そうだよ、ずっとアメリカに行っていたんだ」


「だから暗かったのね。もしかしたら引っ越したのかな? って父と話していたのよ」


「誰にも言わないで行ったのかな?」


「そうみたいです」

優香の言葉で、叔父が慌てて日本を離れたことが伺われた。

叔父は一体何をしにアメリカまで行ったのだろう?


答えは一つ。
きっと行方不明になっていた親友が見つかったのかも知れない。




 「きっと、あのアパートの本来の借りち主が見つかったのかも知れないな」


「本来の持ち主って、もしかしたらアメリカに行った人?」


「知っていたの?」


「パパが話してくれたの。『隼君のおじさんは、アメリカに行っている親友のためにずっとあの部屋を借り続けているんだ』って『誰にも出来ることじゃないんだ』って」


「嬉しいよ。優香のパパが叔父のことを理解してくれて……叔父は皆に変わり者だと思われていたからね」


「ねえ、私も一緒に行ってもいい?」

その言葉に頷いた。




 久し振りにオンボロアパートの部屋に入る。
三ヶ月間閉ざされていた部屋は異常か臭いがした。


僕達は鼻を詰まんで窓を開けた。
空気を入れ替えた後は軽く埃を払いながら掃除機掛けた。


「少しはキレイになったかな?」


「うん。上出来なんじゃない」

優香が窓を拭きながら言う。


叔父が久し振りに帰って来ることが二人の気持ちを明るくさせていた。





 「あれっ!? この人は確か……」

優香が鴨居に隠してあった写真を見つけた。


「この人、例の女優さん。この授乳しているのは……もしかしたら隼なの?」

そう……
あの噂は本当だったんだ。あの女優は僕を産んだ人らしいのだ。


「マネージャーの話によると、僕には二人の母がいるらしいんだ」


「えっ、どう言うこと?」


「噂の女優とその妹だ。僕は代理母の胎内で育ったんだって。それがあの女優だよ。週刊誌によれば、僕は日本に居てはならない存在だそうだ。代理母でもなくて、不倫相手の子供だとかも書かれていたみたいだ」

僕は優香に芸能界を辞めた理由を話し始めていた。




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