大好きな君へ。
 「酷いなこの車。これがこんなになっちゃうんだね」

父は二つの写真を見比べてため息を吐いた。


「ところで……この車変わっているけど、何処で売っているんだい?」


「お前が手作りしたんだろうが」


「えっ、手作り?」

父は頭を抱えた。


「本当に覚えていないようだ。断片的に思い出して事柄を繋げているだけなのかも知れない」

突然オーナーは言い出した。


「ありがとう親父。その通りだよ。真二のことはアメリカ出発前に何となくイメージ出来てた。コイツの日本語を聴いた時は涙が止まらなかった。探していた物にやっと辿り着いたからかな?」


「きっかけは俺の日本語か?」


「そうだよ。今度もカルチャーショックだった。現地語しかなかった世界に突然日本語が聞こえたんだ。全身が鳥肌に覆われたよ」


「それから、それから」
叔父は自分がきっかけになったことが嬉しらしくて次々と質問していた。


「相変わらずお前は……少しは休ませてくれ」


「あっ、そうだったな。悪い悪い。お前がどんな車を作ったのか観ていた俺が一番解る。今から説明してやるからな」

叔父はそう言いながら、父の横に椅子を運んだ。


「配車寸前のライトバンの車検を取ったお前は、本体の上に何処かでもらってきた普通車のボディーを熔接したんだ。それからライトバンの天上をぶち抜いて、荷物置き場を作ったんだ。荷物の出し入れの時に痛めないように研きも入れてな」


「そんなのが良く出来たな……ごめん、眠くなってきた」


「あっ、悪い……」


「いや、真二のせいじゃない。さっきの薬が効いてきたようだ」

父はそう言った後で目を瞑って眠りの中に落ちていった。




 「相澤隼君。君は自分の好きな道に進みなさい。私達は家族なんだ。何の遠慮も要らないよ」


「でもそれでは……せっかく雇ってもらったのに」


「ありがとう。君のその言葉をだけて……ありがとう真二君、私にこんな素晴らしい家族を……この恩は決して忘れない」

オーナーはそう言いながら僕達に握手を求めた。


「店長が『オーナー。すぐレイクサイドセンターのテニスコートに来てください。ソフトテニスの王子様の相澤隼君が此処に来ています』って言った時は鳥肌が立った。私はあの時の君に息子を重ねていたんだよ」

オーナーは泣いていた。泣きながらベッドで寝ている息子を見ていた。




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