王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ウェンディがエリナの両手をぎゅっと握って離すと、エドガーがその手にズシリと重い壺を渡す。
「その"誰か"がキット王子だというなら、僕たちは喜んではちみつを託すよ」
彼がエリナの腕の中にある壺の蓋をそっと外すと、甘くて濃厚な香りが鼻先に広がり、壺の中にはウェンディの髪と同じ色に輝くはちみつがあった。
エリナは大きく息を飲み、泣きそうな顔でふたりを振り仰いだ。
「でも……! 伯爵はきっと、こんなこと……」
「大丈夫。父には僕たちからちゃんと説明するから。それに、うちに伝わるはちみつはそれで全部じゃないんだ。少し分けることくらい、なんでもないよ」
なんでもない、だなんて。
そんなはずはない。
長い間遠ざけられていた禁断の青い果実の材料を集めることが、どれほどのことか。
しかもそれをウィルフレッドに、そして王家に分け与えることが、どれだけ重大なことかはエリナにもわかるのだから、コールリッジ伯爵家の次期家長であるエドガーとその聡明な令嬢にとっては、痛いほど理解できていることだ。
「私、キット王子の……ううん。ウィルフレッドさまの、力になりたいの」
舞踏会を抜け出してひとり中庭で踊ることしかできなかったウェンディを探し出し、手を差し伸べてくれた男。