王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ブルーローズが浮かぶ小瓶を、吸い込まれるような夜空にかざしてみる。
バルコニーの窓についたカーテンが揺れる音が、夜のしじまに溶けていく。
開け放たれた窓は部屋の中にたっぷりと月明かりを導き入れ、エリナの影を薄っすらと浮かび上がらせた。
小瓶をかざして目を凝らしてみても、今はまだはちみつに青い薔薇の花びらが一枚浮かんでいるにすぎなかった。
掲げた透明な小瓶の向こうに、銀色の月が透けて見える。
その光はエリナの手の中の小瓶に降り注ぎ、もう二度と出て来られないように閉じ込められていくみたいだ。
「はあ……」
エリナはお腹の底からこみ上げてきたため息を吐き出し、小瓶をバルコニーの手すりの上に置くと、隣に頬杖をついて夜空を見上げた。
今頃、キットもこの屋敷の客間で同じように月を眺めているだろうか。
王城でも、ウィルフレッドから届いたブルーローズとはちみつを早速合わせて、国王の使者たちがこうやって月光を浴びせているところかもしれない。
キットがどうやってラズベリーを得ようというのかはわからないし、ランバートに敵視される彼ではムリだと思うが、国王の使者たちなら何とかして手に入れてくれるという期待が持てる。