王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~



* * *



朝の慌ただしい時間帯で、屋敷では使用人も侍女も執事もコックも、みんなが目覚めて仕事をしている。

彼らが行き来する棟からは少し離れているが、その熱気はエリナのいる廊下にまで伝わってきた。


ランス公爵家の、いつもの朝。


それなのにエリナだけは、屋敷でいちばん上等な客間のドアを根気強く何度も叩いていた。


「殿下! 王太子殿下!」


さっきから何度呼んでも返事はないし、部屋の中からは物音もしない。

王子の部屋に無断で入るのも、王子を呼び捨てにするのも、キットは怒らないだろうけど周りに知られるのは恥ずかしい。


この屋敷の使用人や侍女たちはみんないい人ばかりだが、例に漏れず噂好きなのだ。

きっと事実に尾びれ背びれに羽まで生えて、屋敷中の者が知るところとなるし、侍女仲間のアメリアなど遠慮なく突っ込んでくるだろう。


「……ほんとにまだ寝てるの?」


彼が起きて来なければ、ウィルフレッドもウェンディも朝食をとることができない。

もしキットが起きれないのは昨夜の夜更かしのせいだとすれば、責任の一旦はエリナにもあるのではないだろうか。
< 158 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop