王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「ウィルのこんなクサい台詞に、夢中になりながら顔赤くしちゃって、すげえ妬ける。でもかわいい」


拗ねたように言う稀斗は、「ただいま」と呟きながら、ほんのりと染まった瑛莉菜の頬にちゅっと音を立ててキスをした。

瑛莉菜の身体が、跳ね上がった鼓動に合わせてピクッと小さく反応する。


今日は瑛莉菜が編集を手掛けた小説、『公爵さまのプロポーズ! 〜偽りの出会いと乙女の初恋〜』の発売日だった。

作者のやよいはるは大人女子向けの恋愛小説レーベル・ミエル文庫の売れっ子作家で、しかしその正体は30歳を過ぎたダメダメの独身男性である。


ひとことでは表せない馴れ初めと様々な出来事を経て、瑛莉菜はそのやよいはるの弟である竜田稀斗と絶賛交際中だ。


瑛莉菜だって、仮にも恋愛小説の編集者で、本来ならこの程度で顔を赤くしたりはしない。

しかもこれは自分が編集を担当した小説だ。

しかしこれにもまた、ひとことでは表せない事情があるのだった。


「だって、ウィルフレッドさまとウェンディのこんなラブシーンなんて、なんだかくすぐったいんだもん」


自分が恋も知らぬ中学生のようだとからかわれた気分で、瑛莉菜は唇を尖らせて反論した。
< 279 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop