王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
この世界で、なんとか上手くやっていかないと。
弥生の作る小説がきちんと完成するように、こちら側でできることをしなくてはならない。
そして禁断の青い果実を手に入れて、元の世界に戻るんだ。
(だけど……)
エリナはアメリアに手を引かれながら庭園を振り返り、黒いカラスが止まっていた木を空色の瞳に映した。
弥生は言った。
禁断の青い果実を食べれば元の世界には戻れるけど、いちばん大切なのはそれじゃないと。
魔法を解く鍵が真実の愛のキスだとすれば、それを見つけられなければ、元の世界には戻れないということなのだろうか。
(私、本当の恋なんてできないのに……)
もう二度と、誰かを本気で好きになることなんてできない。
ロマンス小説のお姫さまのように、誰かからまっすぐに愛され、大切にされることなど、ないのではないかと思う。
そんな自分が、真実の愛のキスを見つけることなんてできるのだろうか。
エリナは一抹の希望とたくさんの不安を胸に、アメリアに手を引かれてはじめてウィルフレッドの邸へと足を踏み入れた。