王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「ヴェッカーズ伯爵!」

「なっ! おい!」


エリナが王子の背中からひょっこり飛び出してランバートを追いかけると、王子が慌てて後ろから腕を掴んだ。

ランバートが振り向くと、エリナは掴まれた腕に構うことなく膝を折る。


「ご招待いただけること、心よりお待ちしております」


エリナにできる精一杯の凛とした声が、静かに廊下に響いて空気に溶けた。


腕を掴む手にわずかに力がこもり、すぐに王子の隣へ引き戻される。

顔を上げると、少し驚いたように片眉を上げたランバートがいて、エリナの空色の瞳に他の令嬢たちにはない覚悟が宿るのを見ると、愉快そう口の端を歪めた。


「私も楽しみにしている」


ランバートは最後に王子へ挑発するような視線を残して、仮面を付け直すと、今度こそふたりに背を向けて舞踏会の喧騒の方へと戻って行く。


その後ろ姿をしばらく見つめていると、反対の腕も掴まれてぐるりと身体の向きが変わり、不機嫌な顔の王子と向かい合う。

王子はウィルフレッドと同じくらい背が高いようで、腰を折ってエリナと目線を合わせると、両腕をしっかり掴んだまま諭すように口を開いた。
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