厄介なkissを、きみと
「あゆ」
不意に名前を呼ばれた。
それは、私の指先が車のドアに触れるのとほぼ同時だった。
「……な、に?」
ゆっくりと視線を移すけれど、やはりそれは、ハンドルに掛けられた翔平の右手でとまる。
名前を呼ばれたときに右肩にのせられた、翔平の手のひらを警戒しているのだろうか。
体じゅうに力が入った。
外は、雨。
車に打ちつける雨が一段と激しくなる。
それでも、
「あゆみ」
私の名前を呼ぶ翔平の声は、はっきりと聞こえた。
「……だ…から、…なに?」
私の声は、かき消されてしまったというのに。