泣きたい夜には…~Hitomi~



コンコン!


「失礼します」


カンファレンスルームに入ると主任の言ったとおり初老のご夫婦が並んで座っていた。


「お待たせいたしました浅倉ですが」


ご夫婦は立ち上がり、頭を下げると親しげな笑みを浮かべた。


「あっ!」


思い出した!!!!


「お身体はもうよろしいんですか?」


ご主人は小さく頷くと、


「はい、おかげさまで半月ほど前に退院することができました。先生の迅速な処置のおかげです、本当にありがとうございました」


奥様と共に深々と頭を下げた。


そう、夏休みに訪れた伊豆の旅館で心筋梗塞で倒れ、心肺停止状態になった嵯峨さんのご主人を私と慎吾で助けた。


まだ2ヶ月しか経っていないのに、私には遠い昔のように感じられた。


私は慌てて、


「いえ、そんな…頭を上げてください。医師として当然のことをしただけですから」


そう、


それが私の仕事。



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