泣きたい夜には…~Hitomi~



「浅倉先生、嵯峨さんという方が先生にお会いしたいとお見えになっていますが」


看護主任が私に声をかけた。


嵯峨さん?


嵯峨さんて、


誰だろう?


友人や親戚に嵯峨さんという人はいない。


患者さんの中に、いたかな?


「うーん」


全く記憶にないので、


「どんな方でしたか?」


とりあえず聞いてみる。


「初老の方で、ご夫婦でお見えになっていますよ」


初老の夫婦?


患者さんの祖父母といったところか。


でも、そうだとしたら「○○の祖父です」と言うだろうし。


「うーん」


わからない。


ますますわからなくなってきた。


首を傾げる私に、


「とにかくカンファレンスルームにお通ししましたので行ってみてください」


主任に促され、気が進まないままカンファレンスルームへと足を運んだ。



.
< 155 / 286 >

この作品をシェア

pagetop