恋架け橋で約束を

待ち伏せ

 そんなに時間がかからずに、校門前に到着した。
 でも、校門の真ん前のような目立つところで待つのは恥ずかしいので、数十メートル先の電柱に寄りかかる。
 五時きっかりに孝宏君が出てきてくれるとは限らないので、ひょっとすると長く待つことになるかもしれなかったけど、私はそれでも平気だった。
 家でじっとしているほうがつらいから。

 空には、ますます黒い雲が増えた気がする。
 せっかくの七夕なのになぁ……。
 七夕……。
 途端に私はまた、不吉な予感に襲われる。
 何なの、もう……。
 私は別のことを考えることにした。



 校門から出てくる学生さんは多かったけれど、孝宏君は見当たらなかった。
 まだ五時にもなってないから当然かな……。
 たまに、校門から出てきた見知らぬ学生さんが、私のほうを見てくることもあった。
 不審がられてるのかな……。
 恥ずかしかったけど、我慢して待ち続けた。



 すると、見知った二人の姿が校門から現れた。
 智君と崎山君だ。
「あれ? 佐那ちゃん、どうしたの? ああー! 孝宏を待ってるんでしょ」
 智君が笑顔で言う。
 すぐバレちゃった。
「え、あ、はい……」 
「やはりお二人は仲睦まじき、おしどりアベックでございますね。今さらジローではありますが、おめでとうございます」
 今度は崎山君が言う。
 そしていつもの直角お辞儀。
「あ、ありがとう」

「しかし、そっかぁ……。最初から、孝宏が好きだったんだよなぁ。俺に言ってくれれば、あんな邪魔はしなかったのに」
 智君は複雑そうな表情で言った。
「それはどうでしょう。御木本君は、きっと邪魔したはずですよ」
「相変わらず失礼だな、崎山は」
 笑いながら智君が言う。
「とりあえず、おめでとう! 孝宏は大事な親友だし、佐那ちゃんを取られてもしょうがないかもなぁ」
「ありがとう」
 智君と孝宏君の仲がすごく良さそうで、私は嬉しくなった。
 いいなぁ、こういう関係。
 記憶を失くす前の私にも、そんな親友がいたのかな。

「ところで、神楽坂君をお待ちということですが、彼は今日、部活の寄り合いがあると言っていましたよ。まだまだ時間がかかるかと」
 崎山君が教えてくれた。
「はい、聞いています。でも、待ちきれなくて……。いてもたってもいられず、ここまで来ちゃったんです」
「うわ……この一途さ……けなげさ……。くっそ~! つくづく、孝宏がうらやましいな! 仲良くね!」
「神楽坂君にゾッコンなんですね、微笑ましいですよ」
 崎山君はいつもの「営業スマイル」を崩さず言った。
「お二人とも、ありがとう」

「とりあえず、孝宏が来るまで、向こうの角にある自販機の前で座って待とうよ。立ってたら疲れるよ。あそこなら孝宏は絶対通るし、ここからもそう遠くないし」
「それは名案ですね。自動販売マシン前にレッツラゴーとしましょうか」
「お二人さえよければ、お願いします」
 私はぺこりとお辞儀をした。
「それじゃ行こう」
 智君が言う。
 そして、私たちは三人で自販機のあるところまで歩いていった。



 自販機のそばで、三人でおしゃべりをしていると、意外にもすぐに孝宏君が通りかかった。
「あれ? 佐那ちゃん! 智と崎山も。三人でどうしたの?」
「どうしたのって、お前を待ってたんだよ」
 智君が答える。
「そうでございますよ、インパラのように首を長くして待っていたんですよ」
 崎山君も言う。
 インパラって、首が長かったっけ。
「おかえりなさい」
 私はなるべく喜びを抑えるように努力して言った。
 こんなところまで出てきて、孝宏君を待っていたこと……本人に知られちゃって、ちょっと恥ずかしい。
 あ、でも……どうせ恥ずかしがるのなら、昨夜の添い寝のほうが……思い出すと……。
 駄目駄目!
 私は何を考えてるんだろう。
「どうしたの?」
 黙り込む私の顔を見つめて、孝宏君が心配そうに聞いてくれた。
「ううん、何でも。じゃあ、帰ろっか」
 私は、孝宏君のそばに移動した。

「それじゃ、俺と崎山はこのへんで。二人でラブラブ下校デートを楽しんでこいよ!」
 智君はそう言うと、崎山君と共に歩き出した。
「ちょ、何言ってるんだ」
 孝宏君は真っ赤になっている。
「では、アベックのお二方、また明日。バイナラ!」
 崎山君は直角お辞儀のあと、智君の後を追った。
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